生活者の“本音”は、選択肢ではなく、文章や言葉の中に表れます。
マーケティングリサーチの中でも自由記述式の回答は、生活者理解を深めるうえで欠かせないデータですが、その価値を最大化するには、適切な分析と解釈が必要です。
本コラムでは、自由記述データを構造的に捉えるテキストマイニングの基本手法を紹介しながら、単なる集計にとどまらず、マーケティング施策や事業戦略につながるインサイトを導くための視点を解説します。
目次
自由記述式設問の活用価値
アンケート調査の聴取方法は大きく(1)選択式、(2)自由記述式の2つの形式に分かれます。
(1)選択式(聴取例)
□価格が手頃だった
□利便性が高い(アクセスしやすい、使いやすい など)
□機能・品質が優れている
□評判・口コミが良かった
□以前から利用していた
□キャンペーン・特典が魅力的だった
□その他
(2)自由記述式(聴取例)
回答例:
「問い合わせ時のスタッフの対応がとても丁寧で、ここなら安心して任せられると思った。」
「以前利用したときにトラブル対応が早かったので、信頼できると感じた。」
「友人に『サポートが手厚い』と聞いていたので試してみた。」
・・・等
(1)の選択式は定量的な集計が容易で、比較分析に向いているという利点があります。
一方で、設定された選択肢の範囲内でしか回答を得られず、生活者の本音を十分に捉えるには限界があります。
これに対し、(2)の自由記述式では、選択肢では拾いきれない具体的な体験や、その背景にある感情を回答者の言葉で捉えることができます。
アンケート調査から生活者理解を深め、マーケティング施策や事業戦略に結びつく示唆を得るためには、2つの形式を適切に組み合わせて活用することが重要です。
本記事では、特に自由記述式で得られる「文章データ」に焦点を当て、その分析手法と、そこから新たな価値を引き出すアプローチをご紹介します。
自由記述回答の分析手法
自由記述回答は「文章データ」です。これが数千件、数万件にも及ぶ大規模な調査になると、すべての回答を人力で読み込み、傾向を把握するのは非現実的で、多大な時間と労力がかかります。
この負荷を大幅に軽減し、効率的に意味を抽出するために活用されるのがテキストマイニングです。
テキストマイニングとは
テキストマイニングは、分析ツールを用いて自動で文章を単語(形態素)に分解し、単語の出現頻度や単語同士の関連性などを統計的に分析する手法です。
大量の文章データを短時間で処理し、全体傾向や示唆を抽出することに優れています。
基本手法(1)単語ランキング
最も基本的な分析が単語の出現頻度を集計し、高い順に並べる単語ランキングです。
以下は、弊社の自主調査「購買行動におけるAI浸透度調査」の自由記述回答を処理した例です。
設問:あなたは、AIに対してどのような期待や不安を持っていますか。何でも結構ですので、あなたの考えを、なるべく具体的にお知らせください。
▼単語ランキングイメージ
このランキングからは、例えば以下のようなことが読み取れます。
・「便利」「期待」「期待する」といったポジティブな表現と、「不安」「怖い」といったネガティブな表現が混在している。
基本手法(2)ワードクラウド
ワードクラウドは、単語ランキングの結果を視覚的に可視化した図です。
単語の出現頻度が高いほど文字サイズを大きく表示するため、視覚的に回答の傾向を素早く把握するのに便利です。
単語ランキングの結果を直感的に把握できるため、報告資料などでもよく活用されます。
▼ワードクラウドイメージ
基本手法(3)共起ネットワーク
共起ネットワークは、共起関係(2つの単語が同じ文章に一緒に出現する程度)に基づいて単語同士を線で結んだネットワーク図です。
これにより、単語単体では分からない「文脈上のまとまり」が見えるようになります。
▼共起ネットワークイメージ
このネットワークからは、例えば以下のようなことが読み取れます。
・「情報」「正確」「間違う」といった単語のつながりが見られることから、単語ランキング(ワードクラウド)の結果と同様に、AIの提供する情報の正確性に関する関心が現れていることが分かる。
・「不安」な感情は情報の正確性に起因すると読み取れる一方で、「人間」「仕事」「奪う」といった単語とのつながりもあるため、AIが人間に置き変わる、つまり雇用やキャリアへの影響にも起因することが分かる。
・「生活」「便利になる」のつながりが見られることから、日常生活における利便性や快適さがAIに対する具体的な期待の対象であることが分かる。
なお、円の大きさは各単語の出現頻度に対応しています。
吹き出しで示しているように、共起ネットワークで形成されたコミュニティ(単語のまとまり)ごとに、実際の回答を確認していくことで、代表的な意見を効率的に抜粋することも可能です。
テキストマイニング結果を踏まえた示唆
例えばですが、分析結果からは、AIサービスに関する以下のような施策のヒントが得られます。
信頼性への懸念を払拭する施策
懸念の中心が「情報の正確性」にあるため、AIがどのように情報を検証し、正確性を担保しているかを透明化することが不安払拭に有効。
人間の役割を再定義する施策
「仕事を奪う」という不安に対し、AIを代替ではなく人間の判断力・創造性を補完する“協働者”として位置づけるメッセージが求められる。
生活者が求める具体的便益を訴求する施策
技術力の抽象的説明ではなく、生活の時短化や負担軽減といった具体的な利用シーンを示すことで期待が購買行動に結びつきやすくなる。
テキストマイニングの注意点
テキストマイニングは、大量の自由記述から効率的に傾向をつかめる強力な手法ですが、その価値は“どのような回答を集め、どう読み解くか”によって大きく変わります。
とりわけ、自由記述の内容は設問の聞き方に敏感で、少しの違いで回答の深さが大きく変化します。
回答者が具体的な体験や思考を言語化しやすくなるよう、調査の設計段階でどんな問いを置くかは非常に重要です。
また、テキストマイニングが示してくれるのは、単語の頻度や共起関係といった「構造」の部分です。
しかし、そこに込められた背景や文脈、生活者の心理の流れまでを読み取るには、ある程度の経験や視点が求められます。
単語が示すパターンを、施策に活かせる“意味”へと変えていくプロセスは、技術的な処理だけでは完結しません。
こうした前提を踏まえると、自由記述分析は、設計・データ・解釈が連動してこそ最大の力を発揮する手法だといえます。
テキストマイニングを導入する際には、どのように問いを設計し、その結果をどう読み解くかまで視野に入れることで、生活者の声がより確かなインサイトにつながっていきます。
生活者の本音を探るテキストマイニングなら電通マクロミルインサイトにご相談ください
自由記述回答は、顧客の“声”そのもの。
テキストマイニングを活用すれば、膨大な声を効率的に整理し、戦略や施策に直結するインサイトが得られます。
次回は、最新のAI技術を組み合わせて自由記述分析の可能性をさらに広げる方法をご紹介します。
単語の頻度や共起関係だけでは捉えきれなかった文脈の深掘りや、回答の自動分類・要約など、AIだからこそ実現できるアプローチを取り上げる予定です。
生活者の本音を探るためのマーケティングリサーチや分析なら、ぜひ電通マクロミルインサイトにご相談ください。