PROJECT STORY 2 プレイス・ブランディングプロジェクト
東急池上線を活性化する
電通×DMI、その協働の軌跡

STORY

電通マクロミルインサイト(以下 DMI)の特徴の1つが、電通とタッグを組み、数多くのプロジェクトに取り組んでいること。そこでは、どういった仕事の流れがあり、どんな役割で動いているのか。それを「東急池上線沿線を丸ごとブランディングする」という話題のプロジェクトを通して紐解きます。このプロジェクトは地方創生・地域活性の切り札となる「プレイス・ブランディング」を用いて企画・実行されており、その軸となるリサーチをDMIが担当。この注目領域でタッグを組む二人に、プロジェクトの全容と協働のメリットについて語っていただきました。

株式会社 電通 CDC クリエーティブ・ディレクター
電通abic project プロジェクトリーダー

2007年より電通の地域ブランドプロジェクト「abic」を推進。地域ブランディングに関する手法、実践、知見を結集した、独自の「プレイス・ブランディング」プラットフォームを確立。多数の著書や論文を手がける、地方創生・地域活性ブランディングの専門家。著書に、「プレイス・ブランディング ~地域から場所のブランディングへ~」(2018年 有斐閣)がある。
▶電通abic project 専用サイト http://www.dentsu.co.jp/abic/

株式会社 電通マクロミルインサイト
リサーチプランナー
2010年度入社。2011年からタッグを組み、以来、プレイス・ブランディング案件を数多く担当し、地方創生・地域活性領域のリサーチではDMIでも一番の知見を持つ。

CHAPTER_1

「プレイス・ブランディング」を力強く支えるリサーチの役割とは?

二人の出会いを教えてください。

  • 最初の出会いは、2011年。岩手県大船渡市の復興支援プロジェクトの仕事でした。私は長野の田舎出身なこともあって、地域を盛り上げることに興味はありましたが、このプロジェクトをきっかけにその興味が強くなったのを覚えています。

  • 従来、「地域ブランディング」といえば「名産品の開発」などを示すことが多く、地域の課題を解決するには不十分でした。それを解決するためには、地域ではなく「場所」をブランディングするという発想が必要だったのです。すでに「プレイス・ブランディング理論」が海外で生まれていたこともあり、そこに人文地理学の知見を取り入れた、日本独自の「プレイス・ブランディング」のメソッドを開発しました。電通としてもプロジェクトを立ち上げ、力を入れて動き出していたところに、DMIの若い力が入ってきてくれたので、嬉しかったですね。

  • それから20案件くらいお仕事をご一緒させていただいたと思います。「プレイス・ブランディング」では、リサーチの裏付けも重要な役割を占めていると考えています。その中でも、リサーチという枠を超えて深く関わらせてもらったのが、東急池上線のブランディングプロジェクトでした。

  • 「プレイス・ブランディング」は、当初は地方創生という位置づけで、行政からの相談が多かったのですが、徐々に周知されて民間企業からの相談も増えてきていたのです。その中の1つが、東急池上線のプロジェクトでした。

CHAPTER_2

プロフェッショナルとの協働から、リサーチの価値を改めて実感

プロジェクトの内容について教えてください。

  • スタートは2016年。池上線には、五反田・蒲田といった繁華街、池上には歴史ある寺があり、戸越銀座といえば有名な商店街があって、実に個性あふれる駅があるのですが、一方で統一的なイメージがありませんでした。そこで沿線全体のブランドイメージをつくりたいというのが、クライアントからの要望でした。

  • プレイス・ブランディングでは、様々なリサーチを行いますが、フィールドワークがとても重要です。本プロジェクトでは約1年をかけて行いました。沿線をよく知る品川・大田区役所の担当者、地元誌の編集者など、見識者にインタビューをして、その情報をもとに、フィールドワークとして、現地を何度も歩き回りました。それと並行して、電通のクリエイターやプランナーの方たちと、どのような方向性が有効か、そのためには何を検証する必要があるのかなどをディスカッションしながら、沿線の住人、または沿線に興味の強い人のリアルな声を探るべく、定量・定性の両面から様々な調査を行ない、またフィールドワークで検証して…といった感じです。

  • そして、最初にひねり出したアウトプットが、ブランドコピーでした。東横線には「おしゃれ」、田園都市線には「高級」というイメージがありますよね。でもリサーチ結果から見ても池上線には、やはりこれというイメージがなかった。そこで、フィールドワークや彼の調査データを踏まえて様々な議論が重ねられました。

  • 調査データから、こんなにも熱い議論に発展するのか、といつも驚かされるのですが、やはり自分のリサーチ結果がリアルに活かされている瞬間に立ち会えるのは嬉しいですし、一体感のあるチームの中で議論から生まれた課題にスピード感を持って調査や分析で対応できます。

  • 彼にもがっつり入ってもらって、チームで納得いくまで詰めていきました。その結果、都心からわずかの場所に心地よい生活を送れる要素がある、この「心地よい」ことこそ、この場所の価値だとチームで納得しました。そしてコピーライターの「観光名所は少ないけど、生活名所はたくさんある」という気づきから、ブランドコピー「生活名所、池上線」が生まれたのです。

CHAPTER_3

メディアを動かしたリサーチデータ

プロジェクトで一番印象的だったことは?

  • 2017年10月9日に、「フリー乗車デー」というイベントを行い、メディアでも大々的に取り上げていただきました。「生活名所」というコピーはできたけれど、やっぱり池上線に乗って、沿線を体感してもらわないとブランドは浸透しません。そこで、「駅を無料で解放する」というイベントを企画したのです。
    ただ、なぜメディアが取り上げてくれたかというと、きちんとリサーチをしていたからなんですよ。ブランド調査での池上線の認知率は54.3%と低く、イメージは曖昧…。そうした沿線の課題から、プロジェクトでの取り組みをリリースに載せて、記者会見を開催しました。その結果、多くのメディアがそのデータの裏付けで社会的問題意識を感じ、池上線を話題にしてくれたのです。

  • 当日はかなりの衝撃で、五反田駅から向かうときに、駅のホームに人があふれていました。地元と連携した企画も盛りだくさんで、皆パンフレットを持って、どのイベントに行こうかという話や、生活名所って面白いね、という声を実際に聞いて、成功を実感しました。

  • 過去3年の体育の日に比べて、乗客数は約3.7倍(東急電鉄社調べ)だったと言います。そうした成果を測るベンチマーク調査は、通常、クライアントへの報告のために行うのですが、これをリリースで発信することで、再度メディアに取り上げていただきました。私としては、リサーチとブランディングとPRがうまく融合した、実に社会的なプロジェクトになりました。

CHAPTER_4

最適解を描く、ベストパートナーを目指して

最後に、DMIと電通とはどのような関係といえますか?

  • プレイス・ブランディングに限らず、電通が深くマーケティング戦略や経営戦略に踏み込めるのは、科学的なアプローチや高度な調査・分析がベースにあるからだと思っています。そこで、私たちはDMIのリサーチプランナーの方に対し、ただ数字の結果だけを求めるのではなく、クリエイターやプランナーの新たな「発見」に繋がる調査分析を求めています。
    そのためにも、チーム一丸となってもらい、課題を理解し、苦楽を共にしながら進めていくことで、最適解を描くことができるのです。だから、彼とは一仕事で終わりではなく、その後も継続的に関わり合い、いまや私たちの欠かせない大切なパートナーになっています。

  • ありがとうございます。確かに、明日は他県の地方創生プロジェクトで、一緒に地方出張ですよね(笑)。今では、このプレイス・ブランディングを一緒にやりたいと手を挙げるDMIの若手も出てきているのでとてもうれしいです。

  • 現在動いているプロジェクトや、ニーズを見ても、今後プレイス・ブランディングはもっともっとオモシロくなる、一緒に日本をもっと元気にしていきたいね。

  • 電通の皆さんの期待に応えるためにも、自身のスキルを高め、プレイス・ブランディングの中での対応領域を広げていくことが目下の目標です。そうすることで、電通にもクライアントにも、DMIの存在意義をより高めていき、社会に貢献していける存在になっていきたいと思っています。

PROJECT INDEX