2023年12月、電通マクロミルインサイト(以下DMI)を含む電通グループ7社はグループ横断組織「未来事業創研」にて開発した「電通 未来ファインダー100」をリリースしました。
「未来事業創研」は、電通グループの未来予測や長期的な事業戦略の専門家が結集し、未来思考で企業のパーパス・ビジョン策定や、新商品や新規事業開発支援などをワンストップで提供しています。そのワークショップを主にDMIが企画・運営しています。
今回はリリースを記念し、未来事業創研のファウンダーである株式会社電通の吉田様とメンバーの弊社工藤との対談により、未来事業創研のソリューションとその可能性についてご紹介します。
- 「未来事業創研」の立ち上げの背景からお聞かせください。
吉田:まず、未来に対するニーズの高まりがあります。今後特に日本では、高齢化や人口減少によって量的成長は厳しい時代になっていきます。また、コロナ禍を経て、生活者の中では “しなくてはいけない”当たり前が薄れ、一人ひとりが生きやすい状態やウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)なくらしを選ぶ流れにシフトチェンジしています。
社会が変化していく中で、企業側も今までと同じではなく、新しい未来に向けて次の成長ゴールや目的を持って進んでいきたい気運が高まっています。
こうした中、体制と専門性を強化するために、電通グループ各社それぞれで行っていた未来予測や長期的な事業戦略のプロフェッショナルのナレッジを集結させ、企業の未来の価値を見出す横断組織「未来事業創研」を2021年に立ち上げました。
もう1つの背景に、私の息子の言葉があります。息子がある時、「昭和って楽しそうだよね、昭和に生まれたかったな」と言われて。確かに、昭和という時代は、テクノロジーの進化、ゲームもどんどん高精細・リッチになり、未来はどれだけ面白くなるんだろうと思えた時代でした。でも、2000年以降に生まれた子供達は、未来の課題や悪くなることばかり見聞きしています。
未来が楽しみになる世の中に変えていくには、私たち大人がもっと希望のある未来を作っていかなければいけない。
株式会社電通 吉田 健太郎様
- 電通マクロミルインサイト(DMI)が参加している経緯を教えてください。
吉田: DMIが生活者調査会社である中で、「人と生活研究所」として「人」と「生活」をキーにしており、未来を考えるときに生活者視点の相性の良さがあります。また未来事業創研立ち上げ以前から、未来ファインダー100の前身「未来予測ファクトカード」を一緒に制作していた経緯からの流れもあります。
実態としては、ワークショップの企画と運営にノウハウをお持ちで任せられるので、ワークショップを一緒にすることが多いですね。
工藤: インタビューやアンケートで実際に生活者に一番対峙しているので、生活者の欲求やインサイトに強い自負はあります。10年以上前にデザイン思考の学びからエスノグラフィを起点にワークショップなどしていましたが、そのころから生活者の課題や望みを企業に視点導入し、一緒により良い社会をつくりたいというのは、個人的なテーマでもあります。
電通グループ横断組織「未来事業創研」
- 未来事業創研には、どんなご相談がくるのでしょうか?
吉田:パーパス・ビジョン策定や新規事業や新商品開発の案件が多いです。ですが、最初から未来予測から考えたいと言われるわけではなく、予見が定まっていないケースも多いです。漠然と「今までのやり方では違う気がする」という相談もあります。
企業の未来づくりにおける、未来事業創研の特徴を教えてください。
吉田:まず特徴の1つが、未来予測をゴールにはしない、です。
というのも、未来予測は大抵人口問題や環境問題など悲観的な未来になりがちです。その課題・マイナスをどう解決するかという、課題解決型アプローチは、ゼロに近づくことはできても、プラスではない。言ってしまうと、楽しくはないですよね。
人を動かすドライバーは、楽しい・ワクワクするなどポジティブなものだと考えており、その姿勢で未来を一緒に描いていくことを、私たちは大切にしています。課題解決型の「Issue Driven」に対して、価値創造型の「Vision Driven」なアプローチです。例えば高齢化に対しても、高齢化の解決というより、高齢化の中で、どう豊かな社会をつくるかを考えます。
「未来予測からやるべきことを考える」のではなく「自分たちでありたい未来を描く」。やらなきゃいけない仕事から、本当はどうしたいのか、誰がどう喜ぶ姿を見たいのかを引き出していく。
コンサルティング会社さんが未来に向けた“ロジック”をつくるとしたら、自分たちは未来への“意志”をつくっている、とも言えますね。
未来事業創研のバックキャストアプローチ
- 「未来事業創研」では、どういう流れで「ありたい未来」を創っていくのですか?
吉田:主にワークショップを通じて「ありたい未来」を構想していきますが、ゴールは、パーパス・ビジョン策定もあるし、新商品や新規事業開発の場合もあります。発想の刺激剤として、今回リリースした「未来ファインダー100」や、他にも生活者意識の“欲求”や生活行動に関するものなど、様々なツールがあります。
工藤:ワークショップではツールを活用し、ありたい未来の暮らしのシーンを中間ゴールにすることが多いです。これを私たちは「ライフピース」と呼んでいますが、そのライフピースを通して新商品発想やビジョン開発につなげます。
ライフピースではなく、Future Personaという未来のターゲットをつくり、それをフックにすることもあります。
ワークショップでは、未来事業創研のメンバーがファシリテートしながら進行しますが、いつも参加者の方が描くライフピースが面白く、素敵ですよね。10年後の幸せってこんな感じかもしれない、と。
吉田:僕らは肯定型のファシリテーションを大事にしているので、「〇〇さん、これすごいおもしろいと思うんですけど、本当はもっとどうしたいんですか?」と尋ねていくと、心の中に眠っていた思いが出てくる。
未来の人々のくらしや行動・価値観
※イラスト作成:松山朋未
未来のターゲットなど、発想の起点となる未来の人物像
※イラスト作成:松山朋未
- ライフピースやFuture Personaから考えるメリットは?
吉田:例えばこの状況のように「たくさん話すときにぴったりな飲料とは?」を考えると、普通はお茶や水が出てきます。そこからアイデアを拡げると、甘い、苦い、スパークリングなど、どんどん手段の検討になっていく。ですが、もっと喉が潤う飲料や、もっと会話が楽しくなる飲料という視点が出てきても面白いですよね。ありたい暮らしやFuture Personaから望まれる商品を考えると、商品が提供する価値や便益、気分など、発想の幅が広がります。「こういう考え方はしたことがなかったから、新しいアイデアがいろいろ出ました」という評価は数多く伺います。
工藤:人やくらしを思い浮かべて、この人を幸せにする飲料って何だろうと考える。そうすると、くらし全般に意識が行き、飲む行為に限定されず、カテゴリーの枠を超えたり、新しい価値創造が生まれますね。
株式会社電通 吉田 健太郎様/株式会社電通マクロミルインサイト 工藤 陽子