UIやUXデザインにおいて、ユーザーからの評価を事前に確認するユーザビリティテストは非常に重要です。
しかし、多くの方が「どうすれば良いかわからない」「大事なテストなので社内で実施したいが、関係者に重要性を説明できない」などの悩みを抱えていると思います。
そこで、本記事ではユーザビリティテストの手順や、実施の際のポイントをわかりやすく解説します。
- ユーザビリティテストで何をするのかを知りたいUXデザイナー
- ユーザビリティテストを実施したいが、予算や協力者を得るために
メリットなどを周囲に説得したいプロダクトマネージャー - ユーザビリティテストを実施した経験はあるが、うまく成果につながらなかったので、
実施するコツを知りたいリサーチ担当者
目次
ユーザビリティテスト(調査)とは
ユーザビリティテストは、ユーザビリティ(使いやすさ)を評価するUXリサーチの調査方法の一つです。
具体的には、ユーザーにプロダクト(Webサイトやアプリなど)を操作してもらい、その行動や発言を通して「ユーザー心理」と「Webサイト/アプリ」の課題を発見する手法です。
Webサイト/アプリの課題には、ユーザビリティの課題だけでなく、必要なコンテンツや機能が十分であるか、など様々な課題が含まれます。
テストと呼びますが、システムテストのように不具合を発見することが目的ではなく、ユーザーの行動を観察して課題を見つけるため、ユーザビリティ調査とも呼ばれます。
UXリサーチ全般についての記事は以下を参考にしてください。
ユーザビリティとは
「ユーザビリティ」とは、どのような意味の概念でしょうか。
ユーザビリティは「使いやすさ」を意味しますが、国際規格のISO 9241-11では、以下のように定義されています。
「ある製品を、特定の利用者が、特定の目的を達成しようとするにあたって、特定の状況で、いかに効果的に、効率的に、満足できるように使えるかの度合い」
言い換えると、なるべく簡単に、迷わず、ストレスを感じずに操作し、ユーザーの目的が果たせることを「ユーザビリティがよい(高い)」と指し、使いやすいとは少し異なるので注意が必要です。
ユーザビリティテストの概要
ユーザビリティテストは、「様々なツールを使う必要があり準備が大変そう」「専用のルームが必要であり、簡単には実施できないのでは?」といったイメージがありますが、その基本はとてもシンプルなアイデアです。
- ユーザーにタスク(作業)を実行するよう依頼する。
- ユーザーがタスクを実行する過程を観察、記録する。
ユーザビリティテストは、この2点を満たしていれば成立します。
もちろん専門の機器があればより精度の高い調査が実施できますが、検証したいプロダクトを用意し、身近な人に操作をしてもらいその様子を横から観察するだけでもユーザビリティテストは成立します。
コストや時間がかけられないときでも、気軽に実施する方法がありますので、是非お試しください。
UXリサーチとは?リサーチ会社のおすすめ手法9選と具体的な活用方法を解説
ユーザビリティテストでわかること
ユーザビリティテストは、実ユーザーにWebサイトやアプリを使ってもらう体験を通じて、多くのことを発見・理解することができます。
会議室で開発者や設計者など関係者間で議論をして結論が出ないテーマであっても、ユーザーに利用してもらうことですぐに正解がわかることも多くあります。
実際のテストでは、「サービス全体の課題」と「ユーザー心理」を理解することができます。
サービス全体の課題がわかる
サービスやアプリ全体を通して、ユーザーにとって「何が悪いのか」がわかります。
「機能が見づらい/見つからない」のか、「機能自体が不足している」のか、「機能は備わっているが使う際にストレスを与える」のか、など、ユーザーにとっての課題がわかります。
ユーザー心理がわかる
ユーザビリティテストで分かるもう一つのことは、ユーザー心理です。
ユーザー視点と言い換えられます。
ユーザー心理とは、サイトやアプリのユーザーは「何に興味関心を持っている」のか、「サイトやアプリを操作するときに何に疑問を持つ」のか、「何にストレスを感じるのか」など、ユーザーがプロダクトを通しての感情を把握することができます。
ユーザビリティテストの利用シーン
では、ユーザビリティテストはどんなときに活用できるでしょうか。
大きくは、プロダクトをリリースする前後に分かれますが、それぞれの利用シーンを解説します。
サービス全体での課題の確認
ユーザビリティテストでは、ユーザーが実際のサービスに触れていくつかのタスクを実行してもらいその様子を観察します。
例えば、「ECサイトでは、ログインをしてお気に入りの商品を検索して購入まで完了する」などです。
そのため、リリース前の開発環境でユーザビリティテストを行うことで、サービス全体で重大な欠陥がないかを確認することができます。
特定の機能の使いやすさの改善
ユーザビリティテストでは、サービス全体だけでなく、特定の機能に絞ってユーザビリティを確認することが可能です。
特定の機能に関するタスクをユーザーに実施してもらうことで、機能の問題点を把握することができます。
これは、リリース前の確認に加えて、リリース後に改修を施す場合、事前に改修が有効かを検証するために使うこともできます。
ユーザーの利用実態把握
ユーザビリティテストは、サービスリリース後の課題整理のためにも使うことができます。
ユーザーが実際にサービスを普段どのように使っているのかを確認することは、プロダクト改善のためにとても有効な調査方法になります。
また、実際のログ解析などで課題の特定ができた場合、その原因がどこにあるのかをユーザビリティテストで検証することも可能です。
ユーザビリティテストの実施方法
ユーザビリティテストを実施方法は、予算や時間に合わせて大きく3つに分かれます。
それぞれの特徴や注意点を説明します。
従来型
アイトラッキング(ユーザーの目線を眼球運動から分析し、視点的注意を明らかにする計測手法)などを用いて、専門の評価者がユーザーに同席して1対1で実施する調査です。
アイトラッキングを用いずとも、複数のカメラでユーザーがプロダクトを操作している様子を撮影し、バックヤードで見学者が観察することもあります。
調査観点が明確になり、実施中に気になったことを質問して掘り下げることも可能です。
また、調査会社のモニタを使うことでテスト対象者の条件を細かく設定することができ、望ましいユーザーを対象にテストをすることが可能です。
一方、当然ですが時間とコストがかかりますし、専用のインタビュールームや機材を用意するため、多くの場合調査会社に依頼をすることになります。
期間は、準備から調査完了まで2ヶ月程度、コストは200-300万程度を見込む必要があります。
また、時間とコストがかかる分、調査の目的や設計をしっかり行わないと効果が十分に得られない点も注意が必要です。
オンライン型
オンライン型は、ZoomやGoogle Meetなどのオンライン会議システムを使ってユーザビリティテストを実施する方法です。
テストを受けるユーザーに専用のカメラを送付することで、手元の操作を録画することも可能です。
カメラの利用が難しい場合は、ユーザーのPCやスマホ画面を共有してもらいながら操作を確認することで代替できます。
対象者を会場に集めなくて良い分、地域を問わずテストユーザーを集めることが可能になります。
一般的なオンラインインタビューについてはこちら
簡易型
簡易型は、職場や自宅などで身近にいる会社の同僚・友人、家族などを対象にユーザビリティテストをする方法です。
テスト対象のプロダクトが用意できれば、今すぐにでも実施できる簡便な方法で、時間もコストもかけずに実施できます。
注意点は、身近な方が必ずしも実ユーザーとは限らないため、実際の利用シーンでの感情やユーザー心理を把握することが難しくなります。
また、相手との関係性によっては、本音を引き出すことが難しく、細かいシナリオを設定することができないこともありますので、簡易型だけに頼り切るのは控えたほうが無難です。
ユーザビリティテストの手順
本章では、ユーザビリティテストの手順について説明します。
必要な準備をすることで、テストの効果が大きく変わってきますので、しっかりと行うようにしましょう。
目的の決定
まずは、実施するテストの目的を具体的に決めます。
ユーザビリティテストなので、「プロダクトのユーザビリティを調査し評価する」ことですが、更に細かい点を決めておきます。
- ユーザーが特定のタスクを迷いやストレスなく実行できるか
- ユーザーは、XXという機能を正しく認識できるか
- A案とB案のどちらがユーザーにとって効率的に目的を達成できるか
などが挙げられます。
目的を決めることで、テストで検証する項目も具体的になります。
仮説の設定
次に、先程決めた目的を基に、ユーザーがプロダクトに対してどんな操作を行うか、どう感じるか仮説を立てます。
仮説を検証することは、自身の製品に対するバイアスを理解することに繋がります。
開発側では「良い製品ができた」と思っていても、ユーザーの真に求めるニーズとは異なっている場合があります。
自分たちがバイアスを持っていることを忘れず、バランスを意識した仮説を設定しましょう。
シナリオとタスクの設計
次に、テストのシナリオとユーザーに実行してもらうタスクを設計しましょう。
シナリオは、テストの目的・注意点など最初に伝える事項から、テストの状況説明、タスクの順番などを設計します。
タスクは、プロダクトを通して実現したいゴールを達成するための作業内容を定義します。
細かすぎず達成したいゴールを書くようにしましょう。
例えば、「新規サイトで会員登録をしてもらう」「自宅先から旅行先までの交通経路を調べる」などです。
タスクはユーザーにとってのゴールだけ明確に設定しましょう。
マニュアルや業務手順書のように、XXのサイトにアクセスし、ログインボタンを押下して、IDとPassを入力して、、、といった細かいものにならないように注意しましょう。
テスト対象者やインタビュアーの準備
テスト対象者のリクルーティングやインタビュアーなど、調査に必要なスタッフを用意します。
:ユーザーに対して直接質問をします。ユーザーの自然な行動を引き出すために高いスキルがある方が望ましいです。
記録係
:ユーザーの発言を記録します。タイピングが得意な人が適任ですが、録画した映像で見直すことや、オンラインでやる場合は自動文字起こし機能などでフォローすることも可能です。
オブザーバー
:第三者としてインタビューを観察し、ユーザーの行動を記録します。
テスト中のユーザーの気になる行動をメモします。
例えば「押すべきボタンを長時間探していた」「〇〇の画面で操作が止まり、迷っている様子だった」などが挙げられます。
会場や機材の準備
会場や機材についても、事前の準備をしっかりしておきましょう。
場所
:調査会社に依頼する場合は手配してもらえますが、自前で実施する場合は、
会議室などユーザーが集中できる静かな場所を選びましょう。
録画機器(カメラ・三脚)
:録画機器を用いてテストの様子を記録します。機材の位置を固定するだけでなく、複数の機器でユーザーの操作をしている手元、表情などを記録できるようにしておくことをおすすめします。
必ずユーザーに対して撮影の事前承諾を得るようにしましょう。
また、プロダクトの操作画面もキャプチャするようにしておきましょう。
ユーザビリティテストの実施
準備ができたら本番です。
可能な限り、事前にパイロットテスト(リハーサル)を実施することをおすすめします。
パイロットテストは本番と同じシナリオを社内のプロジェクトメンバーで実施することで思わぬ不備を見つけられ、安心して本番に望むことができます。
本番では、当初設計したシナリオに沿って調査を進めます。
ユーザーに安心してテストに集中してもらうための雰囲気づくりが重要です。
実際に進めてみると、事前に決めていた質問以外にも聞きたいことが出てくると思います。
その際は遠慮なくユーザーに聞きましょう。
部屋の外から観察しているオブザーバーからの質問は、付箋やメモなどを途中で受け渡すこともあります。
事前に質問が途中で出てきたときのやり取りのルールを決めておきましょう。
結果の分析
テスト終了後は、インタビュアー・記録者・オブザーバーでデブリーフィングをします。
テストで得た気付きなどを情報共有し、次のテストに向けた改善点などを話し合います。
インタビューにおけるデブリーフィングの実施方法は、以下の記事も参考にしてください。
すべてのテストを終えたら、テスト毎に全員のメモや考察を集め、映像と共に、チーム全体に共有します。
そして、結果をもとに、テスト全体を評価します。
テストを評価する指標として「有効さ」「効率」「満足度」の観点があります。
これらの評価をもとに、プロダクトに対してどのような改善が必要かをプロジェクトメンバーで議論し、具体的な要件を整理していきます。
ユーザビリティテストでの注意点
最後にユーザビリティテストを実施する上での注意点をお伝えします。
タスクは大まかなゴールだけを伝え、細かい説明をしない
ユーザビリティの考え方として、「すべての商品はセルフサービス」というものがあります。
とくにWebサイトやアプリなどは、ユーザーは細かいマニュアルなどがない状態で利用します。
また、マニュアルを用意しても読まない場合がほとんどです。
ユーザビリティの高いサービスほど、マニュアルがなくてもほとんどのユーザーが自然に使いこなすことができます。
テストのときも細かい指示や説明はなく、以下のような抽象度の高いものだけを指示しましょう。
「予算5,000円で特定のECサイトで友人のプレゼントを購入する」
「コンビニの買い物で、決済アプリを使って決済する」
「自宅の体重計で体脂肪を測定しアプリと連携する」
操作方法については言及しないよう気をつけましょう。
そのほうが、テスト時に自然なユーザーの行動を引き出すことができます。
テスト時は横から余計なサポートをしない
前述した注意点と類似していますが、テスト中にユーザーが操作につまずいても余計なサポートをしてはいけません。
自分の担当するプロダクトだと、つい操作方法についてサポートをしてしまいがちですが、つまずくということも立派なテスト結果になり、改善のための重要なインプットです。
うまく操作ができず、ユーザーから質問を受けた場合でも「あなたの思うように操作をしてください」と返し、ヒントになるようなコメントは控えるようにします。
発話を促すが、タスクの妨げはしない
ユーザビリティテスト中に思考発話という、思ったことや感じたことをつぶやいてもらう方法があります。
これは、操作をしながらユーザーが感じたことを言葉にしてもらうため、ユーザビリティの改善に役立つ手法です。
そのために、以下のような質問が効果的です。
- 今何を見ていますか?
- 今何を考えていますか?
- 今何をしようとしていますか?
などです。
ただし、質問が多すぎる、ユーザーに考えさせる質問をしてタスク中の行動を妨げるなどの行為は避けるようにしましょう。
また、誘導させるような質問もNGです。
例えば
- なぜそう思ったのですか?
- なぜ、ここをクリックしたのですか?
- いまこのボタンを押したいと思っていますか?
など、理由を聞いたり考えさせる質問は控えましょう。
ユーザビリティテストなら電通マクロミルインサイト
ユーザビリティテストは、身近に存在するユーザーに協力してもらうことで、すぐにでも実施できる調査手法です。
プロダクト開発やリリース後の改善のために重要な調査です。
一方で、本格的なユーザビリティテストを実施する場合、調査会社に相談し委託することも有益です。
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数々の部門横断型プロジェクトを経験したのち、電通マクロミルインサイトにおいてUI/UXリサーチの新サービスを立ち上げ。
責任者として、様々な企業のUI/UX改善プロジェクトに参画。