昨今、物価高が常態化する一方で賃上げのニュースも報じられていますが、家計を取り巻く環境は依然として厳しい局面にあると言えます。
前回の第1回では、消費のスイッチが入る「心理的な境界線」、「消費への欲求」について解説しました。続く第2回では、「物価上昇に対する意識」にフォーカスします。生活者がいま物価高をどのように受け止め、どう家計を守ろうとしているのか。そのリアルな実態と「二極化」する生活者の意識を紐解いていきます。
※電通マクロミルインサイトが実施した「物価変動に対する世の中の捉え方、家計の見直しに関する兆し」調査(2026年2月・第7回)に基づく本連載では、データから生活者のリアルな本音を紐解き、マーケティングのヒントを探ります。
目次
ファインディング
今回の調査結果および前回調査(24年11月)との比較から見えてきた、物価高に対する生活者の意識を3つのポイントにまとめました。
2.「守る層」と「我慢しない・投資する層」。明確に分かれる対抗策
3.二極化の引き金は「未来の収入への期待値」
調査結果の詳細分析:物価高のリアルと二極化する防衛策
ここからは調査結果の詳細を追いながら、生活者全体を覆う負担感と、ライフステージごとに明確に分かれる防衛策について深掘りしていきます。
物価上昇に関する意識:ただ耐えるフェーズは終了。半数が向かう「家計支出の再配分」と、Z世代の「我慢しない消費」
生活者の66.4%が「物価上昇で家計への負担を感じている」と回答し、スコアは前回調査から高止まりしています。しかし、その対応は「なんとなくの我慢」から「具体的な家計マネジメント」へと移行しつつあります。 「お財布のひもを締める(51.2%)」「家計支出配分の見直しを考えたい(48.0%)」という意向が高い水準で定着しており、約半数の生活者が支出をシビアに再配分する動きを見せています。ライフステージ別に深掘りすると、「スマートな守り」と「我慢しない消費」という鮮明なコントラストが浮かび上がります。
・子育て世帯と主婦層の「守りの姿勢」: 日々の家計管理を担う層は、守りの姿勢が強いといえます。「末子小学生以下の子どもあり世帯」で72.4%、「若手パート主婦・専業主婦(夫)」では前回から約9pt増の81.6%が強い負担を感じています。 しかし、彼らはただ悲観して支出を止めるのではなく、無駄を省いて家計全体を最適化しようとするスマートな「守りの姿勢」を強めており、両層ともに「家計支出配分の見直し」への意向が前回より高まっています。
・Z世代(社会人)の「我慢しない消費」: 一方で、こうした守りの姿勢とは異なるスタンスをとる層も存在します。「Z世代(社会人)24歳まで」を見ると、物価上昇下でも「我慢せずに金を使いたい」という回答が33.1%に達しました。 全体平均(13.3%)を大きく引き離すだけでなく、前回調査から約10pt(+9.6pt)も増加しています。ただ我慢するのではなく「使うべきところには使う」強い消費意欲を見せると同時に、詳しくは後述する「投資へ回したい」という意向も前回より上昇しており、世代ごとの意識の二極化がはっきりと表れています。


資産運用に対する意識:Z世代と子育て層に急拡大する「投資重視」の姿勢。ライフステージで異なるアプローチ
この物価高という波に対して、全体で「お金を貯蓄から投資へ回そうと思う」と回答した割合は23.2%にとどまりました。しかしライフステージ別に見ると、実は「末子小学生以下の子どもあり世帯」を除くすべてのセグメントにおいて、前回調査よりも投資意向が増加しており、社会全体としては確実に「投資」への関心が底上げされています。
世代やライフステージでデータを切ると、特定の層における「投資」へのシフトが見えてきます。
Z世代と若手ビジネスマンが牽引する「投資」へのシフト: 世代別に見ると、「Z世代(社会人)24歳まで」が38.3%と全セグメントの中で最も高く、前回調査から12.8ptも増加しています。次いで「若手ビジネスマン(25〜44歳)」も35.5%と高い水準を維持しています。また、「資産運用に力を入れている方だと思う」と回答した割合(TOP3計)でも、Z世代(社会人)は前回比+14.9ptという大幅な伸びを見せ、45.6%に達しています。彼らにとっての物価高対策は、単なる「支出減」ではなく、資産運用によって自らお金を増やす「投資重視」のスタンスへとシフトしていることがわかります。
「子育て層」の一部にも広がる投資意欲の波: 興味深いことに、家計負担感が強かったはずの子育て層の中でも、「末子中学〜大学生以下の子どもあり世帯」において、投資意向が前回比+10.4ptと上昇を見せました。単なる節約にとどまらず、教育費などの将来不安に対して「投資で増やす」という選択肢を取る子育て世帯が増加していることが伺えます。



今後の収入に対する意識:現状への不満と、世代間で開く「将来の収入増」への見通し
こうした世代ごとの防衛策の違い(守りか、攻めか)の根底には、「現在の収入に対する満足度」と「未来への期待値」の明確な差が隠されています。現在の収入に対して「満足していない」と答えた人は全体で71.0%にのぼります。さらに「今後、自分の収入は増えると思うか」という問いに対しても、全体では「増えると感じていない」人が64.8%と多数派を占めました。しかし、これもセグメントごとに見ると、意識の二極化がはっきりと表れています。
シニア・主婦層が直面する「増えないリアル」:「若手パート主婦・専業主婦(夫)」「シニア(65歳以上)」「配偶者と2人暮らし」の層では、前回調査と比較して収入への満足度がさらに低下しています。このように現状への不満が高まる一方で、「壮年パート主婦・専業主婦(夫)」の75.6%、「シニア(65歳以上)」の84.4%は、今後の収入増を見込んでいません。年金生活やパートタイムといった構造上、自力で収入を増やすという選択肢を持たない層にとって、この結果は必然とも言えます。「現状に満足できず、未来にも期待できない」という切実な現実が、強固な節約志向(守り)に直結しているのです。
Z世代・若手ビジネスマン、一部の子育て層が持つ「ポジティブな期待値」: 対照的に、先ほど投資意欲の高さを見せた「Z世代(社会人)24歳まで(50.7%)」と「若手ビジネスマン(51.9%)」においては、半数以上が「今後収入が増えると思う」と回答し、全体平均(35.2%)を大きく上回るポジティブな見通しを持っています。また、「末子中学〜大学生以下の子どもあり世帯」でも、収入増を期待する割合が前回から10pt以上増加しており、これが彼らの投資意欲の向上に直結していると考えられます。
ただし、投資意欲トップの「Z世代(社会人)」の中では、収入増を期待する層と、増えないと不安視する層の差が開き始めている(増えないと感じるBTM2が前回比+7.5pt)という二極化の兆しも見え始めています。昇給や投資、副業など自らのアクションによって収入を増やせるという「未来への期待感」がある層と、収入増が見込めず節約に徹するしかない層。物価高という同じ環境下にありながら、生活者の消費に対する意識はライフステージによって大きく分かれるだけでなく、最も投資意欲の高いZ世代の中でさえ「期待派」と「不安派」に分断されるなど、より複雑な二極化が進んでいます。
企業がマーケティングを行う際は、「消費者は一律に節約志向になっている」と捉えるのではなく、ターゲットが“守り”と“攻め”のどちらのモードにいるかを見極め、提案するメッセージをチューニングすることが不可欠です。


次回予告:データが示す「メリハリ消費」の実態
物価高に対して、世代間で異なる防衛策をとる生活者たち。では、実際に彼らは「何にお金を使い、何を削っている」のでしょうか?
次回は、日用品からレジャー、金融まで全45カテゴリーにわたる詳細な調査データを元に解説。単なる節約にとどまらない、価値あるものにはお金を払う「メリハリ消費の実態」に迫ります。
※近日公開予定
調査概要
電通マクロミルインサイトでは、生活者の意識変化を捉えるため、本調査を定点的に実施しています。
第7回「物価変動に対する世の中の捉え方、家計の見直しに関する兆し」調査
調査主体:株式会社電通マクロミルインサイト
調査方法:インターネット調査
調査対象:全国の15歳〜79歳 男女
サンプル数:2,600ss
調査時期:2026年2月25日(水)~ 2026年2月27日(金)
集計方法: 全国人口構成比に応じたウェイトバック集計を実施
値上げに伴う生活者理解や、購買行動の変容に関するマーケティングリサーチをご検討の際は、ぜひ電通マクロミルインサイトまでお問い合わせください。
本記事では、生活者2,600人を対象とした調査結果をもとに、物価上昇に対するリアルな意識と、世代やライフステージによって「守り」と「攻め」に分かれる防衛策の実態を整理しました。物価高という同じ環境下にありながらも、「未来への期待値」によって生活者の消費意識が二極化しているいま、客観データに基づきターゲットのモードを把握することは、今後のマーケティング戦略やコミュニケーション設計の前提条件を見直す上で重要な示唆をもたらします。
物価高騰下における生活者理解・購買行動分析に関するマーケティングリサーチについては、お気軽にお問い合わせください。
マーケティングリサーチのセミナーや自主調査企画も実施。
