電通マクロミルインサイト 人と生活研究所では、「メディアが人々の幸福感や豊かさにどう貢献し得るのか」を探るため、電通メディアイノベーションラボと立教大学 社会学部 メディア社会学科 砂川浩慶ゼミの皆さんにご協力いただき、ワークショップや自主調査を実施しています。
1回目は私たちから学生の皆さんに向けて研究内容の紹介とワークショップを実施し、2回目では調査設問の設計についてレクチャーのうえ、弊社にて学生の皆さんから寄せられた意見も盛り込みつつ、メディアについても調査を行いました。
さらに学生の皆さんは、調査結果のデータ集計も学んでもらいました。
この活動の最終形として、2025年10月には砂川浩慶ゼミの皆さんに電通本社ビルへお越しいただき、4チームから課題についてのアイデアを発表していただきました。その模様をリポートします。
目次
取り組んでいただいたテーマと学生の皆さんの発表の様子
今回、学生の皆さんには次のようなテーマで、発表に取り組んでいただきました。
その幸せにどのようなメディアがどのように貢献しているか。
メディア、そして生活者の幸せについては、電通・電通マクロミルインサイトともに日々研究に取り組んでいるとても難しいテーマですが、学生の皆さんにも今までのワークショップや調査結果の集計などを踏まえた上で、今ここにはない未来を予測し、4班に分かれて発表していただきました。
1班の発表:バーチャル技術が拓く「つながりの幸せ」
1班は、バーチャル技術が拓く「つながりの幸せ」に焦点をあてていました。
現状ではSNSや動画配信など双方向型メディアの利用が拡大し、人々が「つながり」を求めていることを調査データから確認。そのうえで、未来においてはバーチャル技術の発展が「つながる幸せ」をさらに多様化させるのではないかと仮説を立てました。
具体的には、二次元的に視聴していたアニメや映画、ドラマの世界に、将来的には三次元的に入り込む体験を想定。YouTubeやSNSといった既存のコンテンツも、VR空間を通じて「一緒に参加できる」形に進化すると予測しました。
これにより、友人や家族と距離が離れていても、同じ場を共有して楽しみを分かち合えるようになり、人とのつながりを深めながら幸せを感じられる未来像を描いています。
1班は「メディアは単なる情報提供から、『人と人とを結ぶ幸せの媒介』へとシフトする」とまとめていました。

2班の発表:ライフスタイル変化と技術革新が生む「多様な幸せ」
2班は「幸せのかたちはライフステージごとに多様化していく」と捉えました。
現状、Z世代やα世代は「自分のための幸せ」や「仲間とのつながり」に強く価値を見出していますが、年齢が上がるにつれて重要視する点は人によって分かれていきます。10年後、社会人として30歳前後を迎える自分たちが、仕事や家庭などそれぞれ異なるライフステージに立つことを見据え、「幸せの定義は一律ではなく、より多様になる」と結論づけました。
多様性が広がる一方、全世代に共通して重要視しているのは「つながる幸せ」という調査結果にも着目しました。SNSを中心に、価値観や悩みを共有できる仲間との関係性が強く求められている点に注目しました。さらに技術革新により、イマーシブメディアやバーチャル空間が物理的な距離を超えて人を近づける役割を果たし、障がいや言語の壁をも超えて「同じ情報を共有できる」未来を描きました。
「メディアは世代や地域を超え、あらゆる人を結ぶ架け橋である」と結論づけ、今後の社会での役割を強調しました。

3班の発表:よりパーソナライズされた広告による「消費し持つ幸せ」の拡大
3班は、他の班が「つながり」や「共感」に注目する中で、あえて「お金やモノが増えたときの幸せ」に着目しました。
性別や職業による違いを分析し、さらにSNSやインターネット広告が消費行動にどのような影響を与えているかを考察しました。
調査では、「お金やモノが増えたときに幸せを感じる」と答えた割合は女性の方が男性よりも高い傾向があり、特に女子学生では43.6%が「とても幸せ」と回答しており、同じく「とても幸せ」と回答した男子学生の23.9%と比較しても、差が際立っていました。
また、SNS利用率は学生層で95%以上と圧倒的に高く、実際にSNSをきっかけに購買行動を取った学生は中高大学生ともに6割を超えていました。こうした結果から、SNSが若者の購買意欲を大きく刺激している点に注目しました。
他にも、メディアの役割についても、ポジティブな点・ネガティブな点から分析しました。
SNSやネット広告は、個人の興味に合わせて情報を届けることで購買意欲を高め、「お金やモノが増える幸せ」を支援する一方で、比較意識や欠乏感を生むリスクもあると指摘。ポジティブな側面とネガティブな側面が併存していることを明らかにしました。
まとめとして、3班は「消費による幸せはこれからも重要であり、10年後にはより精度の高い広告が個人の関心に応じて表示されることで、この傾向はさらに強まる可能性がある」と結論づけると同時に、メディアの副作用にも注意を促しました。

4班の発表:孤独社会における“共感のインフラ”としてのメディア
4班は現代日本の「孤独」に着目しました。調査データから、20代では男女とも5割以上が「日常的に孤独を感じる」と回答しており、SNSや職場で関係を持ちながらも「質の低いつながり」が課題となっていることに注目。彼らは「孤独」と「孤立」を区別し、孤独を減らすことこそが10年後の幸せにつながると定義しました。
そのうえで、未来の幸せを「理解・共感・貢献を感じられる質の高いつながり」と提案。社会全体のデジタル化で接点は増える一方、偶然の出会いや深い共感は失われがちになるため、メディアがそれを“設計”する役割を担うと位置づけました。具体的な事例として、孤独を疑似体験するボードゲーム「コドクエ」や「おごり自販機」のような体験型接点を紹介し、コワーキングスペースを「共感のインフラ」として機能させる新しいメディア像を描きました。
結論として4班は、「情報を伝えるメディアから、関係を媒介するメディアへ」という進化が必要だと強調しました。

学生の発表に対して、聴講者の感想は?
今回の発表では下記のメンバーがオブザーバーを務め、学生の発表を受けて講評、フィードバックを行いました。
電通 マーケティング統括センター 三島朱美 センター長
電通 第8マーケティング局 緒方玲子 シニア・マーケティングディレクター
電通 第4マーケティング局 小椋尚太 部長
電通マクロミルインサイト 眞鍋 尚行 代表取締役社長
「今回学生の皆さんに考えてもらった『10年後のあなたや社会にとっての幸せとは?その幸せにどのようなメディアがどのように貢献しているか。』というテーマは、まさに電通・電通マクロミルインサイトとともに、日々取り組んでいるものです。抽象度が高く難しいテーマであるものの、真摯に取り組んでいただけて大変よかった。幸せには正解がないからこそ、我々も模索している中、若い人の意見を楽しみにしていた。」
「同じテーマで、同じ調査データの結果を見ても、切り口を変えれば違うゴールにたどり着く面白さを感じることができた。若い皆さんのメディアや広告に対する率直な意見なども聞くことができ、大変興味深かった。」
などの声が挙がり、学生の皆さんから多くの刺激を得られたようでした。

また、後日、参加してくださった学生の皆さんからも感想いただけました。
―今回の活動を通して、正解のないテーマに対しても、まず仮のゴールを設定し、そこから逆算して考えることで議論を具体化できるという方法を学んだことは、今後ほかの課題や将来の仕事など、あらゆる場面で活かせる大きな学びになったと思う。
―私が属する4班は「コワーキングスペース」というメディアを提案することに決め、そのゴールに向けて調査した。フィードバックで私たちの班は「バックキャスト型アプローチ」だと知った。「共感のインフラとしてのメディアとして一歩踏み込んでいて良い」「変わるもの・変わらない価値を定義づけていて良い」というお褒めの言葉を頂いた一方で、「想いベース」だというご指摘もいただき、データを用いるマーケティングの難しさを感じた。
―分析をデータに基づいて行うマーケティングに興味をもつきっかけになった。そして、データを用いてクロス集計を行ったり、テーマに対する提案を行ったり、さらにはプロの方からフィードバックを頂くという、とても贅沢な体験をさせていただき、忘れられない経験になった。
―他の班の発表を聞く中で、こんなにも多様なアプローチが生まれることに驚いた。データの切り取り方、ストーリーの組み立て方によって、こんなにも異なる提案ができるということが、マーケティングの奥深さであり、面白さなのだと実感した
学生の皆さんが難しいテーマに真摯に取り組んでいただき、マーケティングやデータ集計・分析といったリサーチについて難しさと面白さを実感してもらえたことが伺え、実施したことに意義があったと強く感じました。

今後も、電通マクロミルインサイトでは、メディアの未来やα世代の特徴、そして生活者の幸せについて調査研究を続けてまいります。
