現地でのトレンドや消費者のリアルについて、グローバルリサーチ(海外調査)を担当するグローバルリサーチャーによる出張レポート第6弾は、大麻の合法化から一転、再規制に踏み切ったタイ。
大麻合法化後のタイの街並み
タイは2022年6月アジアではじめて大麻を合法化した。隣国シンガポールでは非常に厳しい対応がとられており、外務省のホームページによると、「一定量以上の所持、密売、密輸入等には死刑が科せられることもあり、また、微量の所持、密輸入でも重罪となります。」とある。アジア初の大麻合法化のニュースは当時大きく取り上げられた。
2024年9月にタイを訪れた際、バンコク中心地には至る所に大麻関連ショップがひしめいていた。「乱立」という言葉がぴったりだ。「合法」という看板がある限り、こそこそと営業する必要はない。丑三つ時、いかがわしい場所で営業することなく堂々と営業している。
タイ保健省によると2023年1月時点で、国内に7700の大麻ショップが登録されているとのこと。参考までに、2024年3月末時点の東京都の登録コンビニエンスストア数が7617店舗。※1)
この大麻ショップの乱立ぶりが想像できるだろう。
1)https://uub.jp/pdr/m/c.html
▼おしゃれな店構えに、Happy Hour。あの手この手で集客を狙う。2024年9月、バンコク中心地にて。※筆者撮影
▼大麻関連商品を扱うおしゃれなお店も多い。普段着用するのに全く抵抗のないデザインの大麻モチーフ・アパレルショップ。2024年9月、バンコク中心地にて。※筆者撮影。
▼一般的なショッピングモール内にも出店されている。こちらはショップは大きく「WEED」の看板を出している。チェンマイにて。※2024年5月、筆者撮影。
合法化に至った背景と、もたらされた経済へのインパクト
日本をはじめアジア諸国では大麻所持や使用などに厳罰を科す国が多い。ではなぜタイがこのような大胆な決断を下したのか。コロナで大きな打撃を受けた経済立て直し策の一つとして、合法化を決めたと言われている。
バンコク・ポストによれば、最新の調査としてタイ国内の大麻市場規模は2025年には約430億バーツ(約1700億円)に達するらしい。※2)
2)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/79847
大麻ショップ利用者の大半は、外国人観光客だ。地元の人の感覚だと利用者の90%以上は外国人観光客だと思うとのこと。実際世界中から観光客が押し寄せている。観光立国タイにおいて、コロナによる経済的ダメージは計り知れない。
賛否はありながらも大麻解禁は失われた外国人観光客を呼び戻すためにも、避けられない決断だったのかもしれない。
外国人旅行客の呼び込みだけでなく、大麻ビジネスは大きなタイ国内雇用を生んだのも事実だ。国や自治体が積極的に企業を誘致したといわれる。
実際、Green House, Royal Queen Seedsなど欧米有名店もバンコクに進出している。マッサージ・オイルや、日本でも一時期ニュースになったクッキーなど美容・食品関連商品など派生商品も多く発売され、ゴールドラッシュになぞらえて現地では空前の「Green(大麻) Rush」と呼ばれるそうだ。
ひと昔前はGreenといえば、観葉植物、コールドプレスジュースのようなものを想起したが、今は大麻。時代で言葉は大きく変化していく。
▼堂々と「Green」の看板。バンコクだけでなくチェンマイにも多くのショップが。※2024年5月、筆者撮影。
▼ノンアルコール・ドリンクなど関連商品も多くみかける。1杯250-300円程度で購入できるところが多い。チェンマイにて。※2024年5月、筆者撮影。
再規制により、街や経済は今後どうなる?
2025年からの大麻再規制により、1700億円にまで膨れ上がった市場の今後、避けられないであろう失業問題、誘致した海外メジャー企業への対応など課題は多い。
長く一緒に仕事をしているタイ人は、
「大麻がすぐ隣にある環境で誰が子育てしたいと思う。経済も大事だけどそれだけではない」
と話す。国内でもさまざま意見があるようだ。
世界でも注目を集めた歴史的な決定から約1年半での短期での方針転換。2025年から街の様子がどのように変化していくのか、いかないのか。今後も継続してレポートしていきたい。
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