マーケティングリサーチは大きく分けると、「定性調査」と「定量調査」の2つの種類があります。消費者について深く理解し、マーケティング活動に生かすためには、目的や活用シーンに応じて、それぞれの調査を使い分け、組み合わせることが必要になります。
この記事では、数多くの調査を手掛ける調査会社として、「定量調査」と「定性調査」について、それぞれの違いや特徴、使い分け方を解説します。
目次
マーケティングリサーチは、定性調査と定量調査の2種類がある
マーケティングリサーチには大きく分けて「定量調査」と「定性調査」の2種類があります。
マーケティングリサーチとは一般的に、「企業のマーケティング課題を解決するためのリサーチ(調査)」のことを指します。ビジネスパーソンにとってリサーチやデータ分析が必要になるシーンは多くあるかと思います。
マーケティングリサーチを行う上で最も重要なのは、リサーチの目的を明確にすることですが、実際に目的が明確となり、調査課題が確定したら、次に検討するのが調査手法です。
今回はその調査手法である「定量調査」と「定性調査」について解説していきます。
定量調査と定性調査の違い
2つの調査を「データの性質」と「調査目的」の観点から考えると、以下のような違いがあります。
調査結果を表すデータの性質の違い
- 定量調査:調査結果が「数値」
- 定性調査:調査結果が「言葉」
定量調査は、最終的な調査結果が「数値」で表される調査を指します。
例えば、特定の質問に【はい】と答えた人は○%、【いいえ】と答えた人は▲%といった表し方や、「〇〇が重要と答えた人は■%」という表し方になります。
一方、定性調査は数値化することができない個人の気持ちや意識、行動を「言葉」で把握する調査を指します。
例えば、インタビューで聞き出した生活者の生の声をまとめたものや、行動を記録・観察調査などを通じてまとめた情報が、定性調査における分析対象のデータになります。
調査目的の違い
- 定量調査:仮説検証、実態/傾向把握、効果測定
- 定性調査:仮説構築、原因把握
定量調査は結果を数値で表すことができるため、立てた仮説の確かさを数値で検証したい場合や、市場の実態/傾向を量的に把握したい場合、満足度や認知率などを数値指標で確認したい場合、キャンペーンや広告の効果をボリュームの観点で測定したい場合などに適しています。
一方、定性調査は、定量調査が結果を量的に見るのに対して、質的に分析を行います。課題を解決するためのアイディア・ヒントの発見や仮説の構築、顧客のニーズの深堀、また事実の背景や原因を探る際に適しています。特に、事実と、その背景や原因の関係性を把握することができるのが定性調査です。
定量調査と定性調査の特徴
次に、定量調査、定性調査の特徴をそれぞれの「主な手法」、「メリット」、「デメリット」という観点からまとめます。
それぞれの特徴を理解し、目的に適した調査を検討するために参考にしてください。
定量調査の手法
定量調査を実施する際に用いられる代表的な手法として以下があります。
インターネットリサーチ(Webアンケート)
インターネットリサーチ(Webアンケート)とは、インターネット上で実施する調査を指します。
調査対象者(回答者)に対してインターネット上でアンケートを配信し、回答をしてもらいデータを回収する方法です。
会場調査(CLT)
会場調査(CLT)とは、指定の調査会場で実施する調査を指します。
調査対象者(回答者)に会場に来てもらい、実際の商品やサービスを試してもらったり、広告を見てもらったりして、その評価をデータとして収集する方法です。
ホームユーステスト
ホームユーステストとは、新商品や改良品を調査対象者(回答者)に送付し、実際に使用してもらって実施する調査を指します。
その商品を実際に使用してみての評価について意見を集める手法ですが、一定期間実際に使ってみないと良し悪しがわからない健康食品やスキンケア用品などの商品についての評価を取得する際に適した方法です。
郵送調査
アンケート用紙(調査票)を郵送して実施する調査を指します。調査対象者(回答者)に用紙を郵送し、回答を記入した用紙を返送してもらい、データを回収する方法です。
電話調査
調査員が調査対象者(回答者)に電話をかけて質問をしてゆく形式の調査です。口頭で回答してもらい、それを記録してデータを回収する方法です。
定量調査のメリット
定量調査には、得られるデータや実施の観点で以下3点のメリットがあります。
客観的に説得力のあるデータが取得できる
最終的な結果が「数値」で表されるため、誰が見ても分かりやすい形で調査結果をアウトプットできます。
検証したい仮説や把握したい実態について数値で裏付けをとることができるので、説得力のあるデータを取得できると言えるでしょう。
データの集計や解釈がしやすい
結果が「数値」で表される定量調査は、「ことば」をかき集める定性調査に比べて集計段階でばらつきが出ることはありません。
また「数値」で捉えるので、結果が個人の解釈に左右されることが起きにくく、調査結果を見た人が共通認識を持ちやすいことがあげられます。
安く、早く、手軽に実施が可能
特に、定量調査の手法としてメジャーとなったインターネットリサーチ(Webアンケート調査)は比較的低価格から実施することができます。
インターネット上で調査対象者(回答者)に依頼をするので、回答の回収ができ次第データを見ることが出来ますし、回答者もPC・スマホ・タブレットからいつでも回答ができるため、手軽な方法であるとも言えます。
定量調査のデメリット・注意点
一方で定量調査には、以下のようなデメリットもあります。
「数値」データを読み解く力がないと活かせない
実際に分かりやすい形で調査結果が出てきたとしても、その数値をどのように捉えて、どのような戦略、施策にするかはデータを読み解く分析力が求められます。
分析力と活用力がなければ、肝心の意思決定やネクストアクションにつなげることができず、調査を活用できないといったことになりかねません。
アンケート(調査票)以上のことは聞けない
事前にアンケートに入れた質問項目以外のことについては基本的に回答を得られないので、事前に想定できていなかったことについてはデータを集められません。
またインタビューなどの会話とは違って、基本的に一問一答の形式になるので、特定の解答について理由や背景を深掘りすることも難しいです。
アンケート調査票の作成のポイントについてはこちらで詳しく解説しています。
定性調査の主な手法
定性調査を実施する際に用いられる代表的な手法として以下があります。
グループインタビュー
グループインタビューとは、モデレーター(司会者)の進行のもと、インタビュー形式で実施する調査を指します。
調査課題を検証するのに適した調査対象者を複数名集めて、グループ単位でインタビューをする方法です。
フォーカスグループインタビュー(Focus Group Interview)の略称としてFGI、もしくはGIと呼ばれたり、グルインと呼ぶこともあります。
デプスインタビュー
デプスインタビューとは、モデレーター(司会者)と、調査対象者が一対一で行う調査を指します。
グループインタビュー同様、適した調査対象者を選定した上で1人の対象者の意見をインタビューで深掘りする方法です。
ビデオ通話が可能なサービスの普及や、コロナ禍によって、インタビュー調査はオンラインでの実施も増えています。
行動観察(エスノグラフィー)
エスノグラフィーとは対象者の行動を観察する調査を指します。対象者の自宅への訪問や、買い物に同行することを通して、言語化されにくい行動や動作に現れる情報を観察・記録する方法です。
訪問調査(ホームビジット)
訪問調査(ホームビジット)は、行動観察(エスノグラフィー)の一種です。
調査テーマの商品が対象者の家庭で使われている様子や、使われている環境を観察する方法です。
定性調査のメリット
定性調査には、特に得られるデータや情報の観点で以下3点のメリットがあります。
数値化できない、消費者の心理を把握できる
人の行動には、必ずその人を動かす背景となる心理状況や理由がありますが、定性調査では、そういった数値化できない想いや価値観、行動背景を捉えることが出来ます。
定性調査の手法を用いて対象者の深層心理に迫ることで、消費者の行動の関連性を理解することができます。
行動や心理の推移が分かる
ある程度時間をかけて対象者を深掘りしていくことで、その人の行動や心理の変化を追うことが出来ます。
例えば、「その対象者がロイヤルユーザー化した経緯」や、「なぜその商品の使用をやめてしまったのか」、といった一連の行動・心理推移はブランド担当者にとって重要な情報になると思います。
生の声や反応が見られる
インタビューや行動観察を通して得られる情報は、まさにその場で生成される情報で、一次情報です。
例えば新商品のコンセプトや試作品を見せた際の純粋な第一印象やリアクション、反応、発言といった消費者や生活者から貴重な情報を直接得ることが出来ます。
定性調査のデメリット・注意点
一方で定性調査には、以下のようなデメリットや注意点もあります。
インタビューの成功が属人的なスキルに依存する
インタビューが盛り上がるか、対象者が答えやすい雰囲気を醸成できるかなど、インタビューの成功が属人的なスキルに左右されてしまう部分があります。
スキルのあるモデレーター(司会者/インタビュアー)と実施すると同時に、調査課題を解決できるようインタビューフローをしっかり設計することも重要です。
対象者選定の難易度が高い
定性調査の設計において重要なのは、適切な対象者の選定です。その対象者はこちらが聴取したい情報を持っているか、その商品やサービス・調査テーマについて色々と語ってくれるかといったことは実際に調査を始めるまで分かりません。
そのため、一体どんな条件に合致する人が、今回の調査では適切な対象者となるかといった事前の設計とリクルーティング(対象者の招集)が重要です。このパートも知識や経験がないと難易度が高いと言えます。
アンケート調査に比べると価格が高い
定量調査と定性調査は、得られるデータの質と適した調査目的が異なるため一概に費用を比べることはできませんが、定性調査は1人あたりの調査対象者により多くの費用がかかります。
定量調査と定性調査の使い分け
まずは調査を実施する目的を明確にした上で、適切な使い分けをすることが重要です。
今回の調査で明らかにしたいことは何か、どんな課題を解決したいか、得られたデータを用いてどのような意思決定ができるとよいか、などを調査設計時に明確にすると、どの調査手法をとるべきかを判断することが出来ます。
目的を整理した結果、
などに落とし込まれた場合は定量調査が適切と言えるでしょう。
一方で
というようなことであれば定性調査が向いています。
定量調査と定性調査の組み合わせ
調査の目的や、最終的な意思決定のために導き出したいアウトプットによっては、定量調査と定性調査を組み合わせて調査課題にアプローチすることもあります。
定量調査▶︎▶︎▶︎定性調査
定量調査で大枠の構造を把握し、その要因を定性調査で深掘りする、という組み合わせ方です。
例えば、定量調査である商品・サービスの認知度や購入実態を量的に把握した後に、なぜそれが選ばれているのか(選ばれていないのか)といった理由の深掘りをしたり、その商品・サービスについて持たれている想いを探索したりといったことが可能になります。
定性調査▶︎▶︎▶︎定量調査
定性調査でいくつかの仮説を抽出し、それを定量調査で量的に検証する、という組み合わせ方です。
例えば「全くの新商品・新サービスで調査をしようにも仮説が立てられない」、「自社製品の使用実態について調査をしたいが、仮説が一般生活者の感覚と合っているか分からない」といった場合には、急に定量調査を実施してアンケート(調査票)を作成しても、精度の低いものになってしまうでしょう。
このような場合には、まずは定性調査を実施し、一般生活者の生の声を参考にして仮説を抽出します。
その仮説をもとに定量調査内の質問や選択肢を考案すれば、実態に即した内容で量的な検証をすることができます。
まとめ
定量調査と定性調査はどちらの方が優れている、ということではなく補完関係にあります。
まずは調査を実施する目的を明確にした上で、適切な使い分け、組み合わせをすることが重要です。
弊社では、貴社のマーケティング課題をヒアリングしたうえで、最適な調査方法をご提案します。
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