従業員のエンゲージメントの重要性は、昨今ますます増しています。
会社に求めるものとして、「楽しく働けること」を選ぶ学生の増加、「個人の生活と仕事を両立させたい」といったワークライフバランスを重視する意見が増えているなど、会社や仕事に対する考え方が大きく変化しているという背景があります。
有効求人倍率が増加し売り手市場と言われている今、企業の採用は更に難しくなっています。そのため今いる人材の離職率を下げ、定着率を上げることが肝要です。
会社は従業員のエンゲージメントを高める努力をし、従業員がやりがいを持って働ける環境へ改善することが求められます。
エンゲージメントを高めるには様々な方法がありますが、まずは会社の現状を正しく捉えるために従業員満足度について調査をすることをおすすめします。
そこで本記事では、マーケティングリサーチ会社ならではの視点で、企業や組織の課題解決の1つのツールとして有効な従業員満足度調査について目的、メリット、調査方法などを解説します。
目次
従業員満足度調査とは
「従業員満足度」とは、勤めている職場の環境、人間関係、仕事内容など、自分自身が従業員として、その組織に勤めていること自体に対しての満足度を表すものです。
従業員が組織で働く際の「居心地の良さ」を示します。
従業員満足度は、英語で「Employee Satisfaction」となるため、頭文字をとって「ES調査」とも呼びます。
従業員調査を行うことで「従業員の不満の要因」を把握できるため、調査結果を活用し改善をしていけば「離職率の低下」「社員の士気向上」などにも繋がり、結果として自社の製品やサービスの向上に繋がる可能性もあります。
これは従業員が報酬、福利厚生や労働環境、人間関係に満足感を得ていれば、自社や自社製品への愛着心が生まれるためです。
従業員自身が勤めている会社に対して愛着を持つことで、顧客に満足してもらえる対応を自主的に行うようになっていくため、サービスや品質の向上に繋がります。
厚生労働省では「魅力ある職場づくり」のために労働生産性の向上と人材確保をするよう呼びかけており、顧客満足度(CS=Customer Satisfaction)だけでなく、従業員満足度を重視するよう発表しているなど、従業員満足度は企業経営にとって重要な指標といえます。
従業員満足度調査を行う目的、メリット
従業員満足度調査の目的は、働いている従業員の現在の満足度を把握することです。
調査することで「モチベーションの可視化」が可能になり、より従業員にとって良い環境を提供し続けるためにも、その結果を活かして「人事施策を管理」していく必要があります。
ここからは下記に挙げる4つの点について詳しく解説していきます。
- 従業員のモチベーションの可視化
- 人事施策の管理
- 離職率の低下
- 顧客満足度への連動
従業員のモチベーションの可視化
従業員の「やりがい」「モチベーション」を定量的に示すことで可視化することができます。
年に数回の人事面談や、日ごろの仕事への取組みを見ているだけでは、従業員がどのような思いを持って日々仕事に取り組んでいるのか分かりません。
業務内容や人間関係、給与や福利厚生など本人の考えを人事担当者や上司が把握することは非常に難しいからです。
大きな組織になればなるほど従業員が多くなるため、経営層が自社の従業員全員の仕事へのモチベーションを把握するのは困難です。
そこで従業員調査を活用し、従業員の「やりがい」「モチベーション」について定量にデータで把握することで、現在の状況や課題がクリアになっていきます。
人事施策の管理
企業は従業員のために様々な人事施策を行います。例えば、従業員が働く職場環境改善、研修制度、福利厚生などです。
このように人事が行う「制度」「施策」について、従業員が満足できているか、または改善が必要なものはないかを確認する必要があります。個別の人事施策の評価をするためにも従業員満足度調査は効果的です。
従業員調査によって明らかになった課題を次の施策検討時に役立て、労働環境をより良いものにしてきます。
人事制度・施策のPDCAを回し続けることで従業員にとってより良い労働環境や制度、施策を提供することができます。
離職率の低下
従業員満足度調査を実施し、不満に繋がる要因が明らかになれば、それを改善することで離職率を下げることができます。
社員それぞれで満足点や不満点は異なる場合も、定量的に把握すれば、どの要素に多くの従業員が不満に感じているのか明確に分かります。
不満点としてスコアが高い項目は早急に完全すべき項目として改善に取り組むことで、退職する人を少なくすることができるのです。
顧客満足度への連動
調査から明らかになった課題について改善していくことで、従業員の満足度は向上していきます。
働きやすい環境が従業員へ良い効果をもたらします。
仕事へのモチベーションがアップすることで、自社や自社製品・サービスへのロイヤリティも高まり、より熱心に仕事に取り組んでくれるようになるため、業績のアップにもつながる可能性があります。
従業員満足度調査の有効な活用方法
調査で必要なデータを収集できたらデータを分析し、施策に落とし込んでいきます。
結果を受けて「施策につなげる」こと、そして「定期的にチェック(調査)」していくことが大切です。
施策につなげる
従業員満足度調査を実施して、結果が分かったので終わりという訳ではありません。
すべての調査で言えることですが、課題が見つかったら次は改善に向けて行動する必要があります。
具体的にどの部分を改善すべきなのか。
重視すべきポイントを見極めて、次の施策につなげることが重要です。
例えば、社内のコミュニケーションについて数値が低い場合は、コミュニケーション施策を設ける。
研修制度に不満がある場合は研修の内容や質を変更する、メンター制度を設けるなど、不満点に対してどのような対応をしていくか。
従業員満足度をアップさせるために最適な改善策を実行していきましょう。
社員にフィードバックしていくことが重要です。
定期的に調査する
従業員満足度調査は1度行ってその不満点を改善したら終わりという訳ではありません。
従業員満足度が高い状態を維持するためにも継続的に改善し続けなくてはなりません。
人事制度・施策のPDCAを回し続け、労働環境や制度、施策を改善し続けることが重要と言えます。
外部委託も積極的に検討する
自社で従業員満足度調査を行うことも可能ですが、調査会社などの第三者への外部委託をした方が、様々な角度から調査・分析可能です。
自社で実施すれば無料なのでよいと思うかもしれませんが、客観性や専門的な知識がある企業でサーベイを行うことで、より精緻な結果を得ることができます。
仮に調査を自社で行った場合、匿名性が本当に担保されるのか不安になる従業員もいるでしょう。
個人が特定され人事評価に影響が及ぶことを恐れて本音で回答できないとこもあるかもしれません。
第三者機関に依頼することで、今まで気が付いていなかったことも調査によって明らかにできるケースもあります。積極的に外部の調査会社や専門機関を活用してみると良いでしょう。
従業員満足度の実施時の注意点
調査を行う上で留意するべき注意点は3つあります。
- 個人を特定できないようにする
- 結果を従業員に公表する
- 改善策を決めて実行する
この3点を念頭に調査を実施していく必要があります。
個人の特定をできないようにする
従業員に本音で回答して貰うためにも個人は特定されないことをアナウンスし調査を実施することも良いでしょう。
また実際の調査では、個人を特定できないように匿名性を保って調査を行うことで、従業員の心の声を拾いあげることができます。
結果はなるべく従業員に公表する
調査結果は従業員に公表し、改善していく方向性についても従業員に明示することをお勧めします。
理由は、従業員の声が上司や経営層に届き環境改善が行わっていくことで、会社に対する信頼度や愛着度が高まるためです。
従業員の考え方に良い影響を与え、業務に対して意欲的に取り組む意識が芽生えるきっかけにもなり、会社全体がポジティブ雰囲気になっていきます。
会社が自分の意見に耳を傾けようとしている姿勢を感じれば、社員を大切に思ってくれていると良い印象を与える効果があります。
実施した内容をもとに改善策を決めてやりきる
問題点が明らかになれば、次はその課題改善に向けて施策を実行していきます。
従業員にとって優先度が高く、改善が可能な課題についての施策を検討し、実行に移していきます。
例えば、ストレス度チェックを導入して定期的に労働時間や心理的な負担を管理する。
経営理念や方針が浸透していない場合は、経営戦略や理念を会社の目立つところに掲示して従業員に浸透させる。
人事評価制度への不満がある場合は新たなシステムを導入する。
人材育成制度を見直し、新たな研修制度を導入するなど、調査で明らかになった問題点に対して、満足度向上を目指し改善策を決めて実行していきましょう。
従業員満足度の実施の流れとポイント
ここからは従業員満足度調査を実際に行う際の流れやポイントについて解説していきます。
①調査目的の明確化
顧客満足度調査やキャンペーン評価調査など他の調査と同様に、調査を行う前にその目的を明確にする必要があります。
会社の方針や制度を見直すため、社員の意欲を向上させるためなど、「何のために」従業員満足度調査を実施するのか。目的を明確にしましょう。
②アンケートの作成(項目作成)
目的を明らかにしたら、アンケートを作成します。とはいえ、どんな質問を作ったら良いかわからない、という方も多いと思います。
そこで、顧客満足度調査で活用できる調査項目をご紹介します。アンケート作成の参考になれば幸いです。
従業員満足度の調査項目は、下記の5つに大別されます。
- 業務内容・・・仕事へのやりがい/仕事のボリューム
- 職場環境・・・会社の設備や環境/同僚や上司、関係するとの人間関係
- 処遇・・・給与や福利厚生
- 風土・・・コンプライアンスへの取り組み、社風
- 会社の方針・経営・・・経営理念、会社の方針への共感度
どのテーマを深堀して原因や課題を浮き彫りにしたいのかをよく検討した上で項目や質問を設計しましょう。
ここからはそれぞれのアンケート項目と具体的質問について詳しく解説してきます。
業務内容について
現在の自分自身の仕事への「やりがい」や、自分自身が「成長しているかの実感」やモチベーションの状況、仕事の量が適切かどうかといった内容が挙げられます。
Q.現在の職務にやりがいを感じている
Q.現在の職務は自身の成長のつながっていると思う
Q.現在の仕事の量は適切だと感じる
職場環境について
自身が働いている職場環境への満足度に関する項目です。職場の人との関係、風通しの良さ、部署やチームなどでの協力体制が整っているかどうかなどが項目として考えられます。
Q.困ったときはチームのメンバーが助けてくれる体制ができている
Q.相談しやすい雰囲気や環境がある
Q.職場では文化や言語、宗教、性別の違いを尊重しあっている
処遇について
給与、手当、福利厚生など従業員の待遇に関する内容が挙げられます。
Q.月の給与額は実務に見合っていると感じる
Q.利用可能な福利厚生の内容を熟知している
Q.高い能力があれば昇進も公平に行われていると感じる
風土
会社全体や所属する組織の風土/雰囲気についての内容です。
Q.自分の考えや意見、アイデアを自由に言える雰囲気がある
Q.社員の向上心や成長意欲を伸ばす組織風土がある
Q.挑戦を評価し、失敗を恐れない前向きな組織風土がある
会社の方針・経営
会社の経営方針、ビジョンについての項目です。経営理念や業績、将来性などに関する内容が挙げられます。
Q.会社の理念や目標について十分に理解している
Q.経営者は社員を大切にしていると感じる
Q.会社の経営方針や事業計画など、経営に関する情報をタイムリーに知ることができる
質問数が多すぎると回答するのが面倒になり、途中離脱などの可能性があるため、目的に応じて項目を絞り質問数が多くなりすぎないように気を付けましょう。
途中離脱を防ぎ一定の回答数(サンプル数)を確保するためにも30問程度が対象者に負担がない設問数と言われています。
ここで提示した調査項目は、あくまで例となります。調査目的や課題などに合わせて調査項目を検討する必要があります。
調査目的に応じて自社に必要な項目を盛り込んでいきましょう。
③結果分析
従業員満足度調査におけるアンケートの集計・分析方法は3つあります。
- 単純集計
- クロス集計
- 満足度構造分析(相関係数)
それぞれについて解説してきます。
単純集計(Grand Total)
質問項目ごとに合計を集計し、パーセンテージを算出する集計方法です。
例えば、回答者100人に対する設問で「満足」と回答した人が50人だった場合、満足度は50%となります。
この集計方法は、回答全体の傾向を把握する際に適しています。
1つ1つの質問ごとに回答の大まかな傾向を把握することが可能な集計方法です。
簡単に分析を行えるという点でメリットはありますが、詳細な要因を無視した大雑把な分析となってしまうというデメリットもあります。
クロス集計
特定の条件で分けて分析した際、「各層ごとに傾向がどう変わるのか」を分析するために用いられる集計方法です。
男女別や在籍年数別、役職別、部署別など属性に応じてそれぞれの傾向を見る際に使用します。
例えば、「性差を見るために男女で比較する」「役職付きとそうではない層で比較する」など、特定グループの傾向を把握できるのがクロス集計の特徴です。
満足度構造分析
満足度を高く回答した人がどの質問に対し高い回答をしたのかを分析する方法です。「相関係数」とも呼ばれます。
満足度構造分析により、従業員の各質問項目への重視度合いを把握することが可能になります。
従業員がどのような項目を重視しているのか分かれば、不満点に対する改善点が見つけ易くなり、課題や問題点の特定につながります。
従業員満足度の調査手法
従業員満足度調査には主に2つの調査手法があります。
インターネット調査
グループインタビュー調査
それぞれの調査方法について解説してきます。
インターネット調査
インターネット上で行う様々な調査のことで、「インターネットリサーチ」「Webアンケート」とも言います。パネル、もしくはモニター(会員)と呼ばれるアンケート回答者へWebを利用して設問を配信・回収します。
短期間で実施できる点や、低いコストで調査対象者・回答ともに大量に集めやすいという利点があります。
定量的な数値データを手早く集めたい場合は、インターネット調査がおすすめです。
グループインタビュー調査
インタビュアーと対象者数名で行うものをグループインタビューといいます。
調査対象者6人前後で1つのグループを作り、調査対象内容について座談会のように自由に発言して貰います。対象者の考えや本音を収集するのに適した手法です。
「従業員満足度調査」についてお考えの方は、電通マクロミルインサイトにお問い合わせ下さい
従業員満足(ES)の重要性は今後も高まっていくことが予想されます。
どのように調査を行い、結果をどのように生かしていくのかお考えの方は、電通マクロミルインサイトにお問い合わせ下さい。
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