広告費がマス広告からWeb広告へシフトしていることからも読み取れるように、昨今では全方位的なマーケティングからターゲットを絞ったマーケティングが重要視されるようになりました。
かつてはマス広告媒体を用いて、認知を拡大すればある程度売上に直結していましたが、モノがあふれる現代においては認知率の拡大が売上と直結しないこともあります。
今後はマーケティング戦略においてもより精緻なROI算出が求められる中、ターゲットを絞ったターゲットマーケティングの考えが普及していくことが考えられます。
本記事では各企業のターゲットに対して年間多数の調査を実施するマーケティングリサーチ会社として、「ターゲットマーケティング」の意味から、どのようにターゲットマーケティングを進めていくのかまで詳しく解説しますので、参考にしていただけますと幸いです。
目次
ターゲットマーケティングとは?
「ターゲットを絞るターゲットマーケティングの概要は理解できるものの、具体的な手法などのイメージは浮かばない」という方も多いかと思います。
本章ではターゲットマーケティングの意味から具体的な手法に関して順を追ってご説明します。
ターゲットマーケティングの意味
ターゲットマーケティングとは、細分化した市場から特定の顧客層を絞り込んで行うマーケティングのことを指し、「マスマーケティング」の対義語にあたる言葉です。
マスマーケティングとは不特定多数の消費者を対象に行うマーケティングのことで、消費者の属性などを限定せず全方位的にマーケティング活動を実践します。
ターゲットマーケティングと同じ意味で「マーケットセグメンテーション」が使われることもありますが、「マーケットセグメンテーション」とは同じニーズや特性ごとに市場を分類することを指し、厳密には違いがあります。
ターゲットマーケティングの主な手法
ターゲットマーケティングを行う手法で代表的なものとして「STP分析」があげられます。
STP分析とは、「誰に」「どのような価値を提供するか」を検討する際に活用される分析手法です。
セグメンテーション(S)、ターゲティング(T)、ポジショニング(P)の3つの観点で分析を行います。
- セグメンテーション(S)
- ターゲティング(T)
- ポジショニング(P)
STP分析は、市場と顧客の観点で自社が価値を届けるべきターゲットを限定でき、差別化するポイントを明確にすることができるため、結果としてマーケティング活動を効率的に行うことが出来る実践的なアプローチ方法です。
ターゲットマーケティングの位置付け
ターゲットマーケティングは、マーケティングプロセスにおける「基本戦略の策定」に位置付けられます。
図のようにターゲットマーケティングを行う前に、市場調査を活用した環境分析を行うことでマクロな視点でビジネス環境を把握しておくことが欠かせません。
ターゲットマーケティングを実施することは、その後の施策立案や実施の成否を分ける土台となるということを理解しておきましょう。
マーケティングリサーチの基本については、こちらでさらに詳しく解説しています。
STP分析を活用したターゲットマーケティングの進め方
ターゲットマーケティングは基本戦略の位置づけであり、STP分析が欠かせないということは先述した通りです。
STP分析は重要なフレームワークですが、適切な順番で分析を行うことではじめて効果を発揮します。
本章ではSTP分析をどのように進めていくのが良いかを解説します。
Step1 市場を細分化する
まずSTP分析はセグメンテーション(S)から始まります。
セグメンテーションとは、同じニーズや特性ごとに市場を分類することです。
セグメンテーションを行うことで、競合他社に対して優位に立てる市場はどこかを見極められ、同時に自社の商品・サービスがどの層に必要とされるのかを推測することが可能です。
市場を細分化するための有効な切り口には、性別や年齢、エリアなどの人口統計学的な変数やライフスタイルや性格などの心理的変数、使用頻度やロイヤリティなどの行動変数があります。
変数 | 切り口 | 具体例 |
---|---|---|
人口統計学的変数 | 性別、年齢、職業、年収 | 男性/女性、未婚/既婚、 関東/関西、 大都市/中都市/その他 など |
心理的変数 | ライフスタイル パーソナリティ | アウトドア派/インドア派 先進的/保守的 |
行動変数 (消費者行動変数) | 使用タイプ、使用頻度 商品関与度、ロイヤリティ | ヘビー/ミドル/ライト 時間(朝/昼/晩)、経済性重視/機能性重視/デザイン性重視 |
Step2 ターゲットを選定する
セグメンテーションで市場を細分化したのちは、細分化したセグメントのうちどこをターゲットとするのかを選定する必要があります。
ターゲット設定を誤ると後々のマーケティング活動に大きな影響を及ぼしますので、非常に重要なポイントです。
ターゲット選定を行う際は、以下6Rと呼ばれる指標を用いる方法が効果的です。
- 市場規模(Realistic Scale)
- 市場の成長性(Rate of Growth)
- 競合状況(Rival)
- 優先順位/波及効果(Rank/Ripple Effect)
- 到達可能性(Reach)
- 測定可能性(Response)
まずは市場の観点で「ビジネスを規模として十分に適切か」、「市場が成長しているか」、「競合が多くないか」、「今後注目となる市場か」などターゲットとするに足る水準であるかを検討します。
その後ユーザーへの到達可能性と効果検証が可能かどうかを確認したのち、問題なければターゲットとして選定します。
6R | 分析の視点 | ポイント |
---|---|---|
Realistic Scale (市場規模) | 対象とする市場の規模が適切かどうか
| 規模が大きい市場は魅力的だが競合や新規参入も多く、競争が激しい |
Rate of Growth (市場の成長性) | 今後の成長性が見込める市場か | ・市場規模が大きくても衰退市場であればリスクが生じる ・今後の成長が見込める場合は早期に参入すると先行者利益を獲得できる |
Rival (競合状況) | ブルーオーシャンかレッドオーシャンか | 寡占市場であれば参入のハードルは高い
|
Rank / Ripple Effect (優先順位 / 波及効果 ) | 他のセグメントに対する影響力や波及効果を狙えるセグメントかどうか | 今後メディアが注目しそうな市場はマーケティング効果が得やすい |
Reach (到達可能性) | 広告やプロモーションが潜在顧客に届く可能性はあるか | ユーザーへの導線が確保できていない場合は見直しが必要 |
Response (測定可能性) | 商品・サービスの満足度や広告効果が測定可能であるかどうか | 効果検証ができるかどうかで目標設定に影響が出る |
Step3 ペルソナを設定する
ターゲット選定後はペルソナを設定します。
ペルソナとは特定サービスの典型的な人物像のことを指し、ターゲットよりも詳細な情報を決めます。
ペルソナを決める際の代表的な項目は「性別」「年齢」「居住地」「職業」「趣味嗜好」「年収」「考え方」「休日の過ごし方」「SNSの利用有無」など多岐にわたり、自社サービスの代表的なユーザーを定義します。
ペルソナを設定することでターゲット選定だけでは見えにくかったユーザー像をより詳細に描くことが可能になり、顧客に適切なアプローチを行うことが可能になります。
ペルソナマーケティングとは?古いと言われる理由や具体的な手順
Step4 インサイトを発見する
ペルソナが決まると、そのユーザーがどのようなインサイトを持っているかを明らかにします。
顧客インサイトとは、顧客が自覚していない直感や本音、発見のことを指します。
顧客が自覚していないのは顧客の深層心理にある無意識の欲求であるためで、生活者自身も明確な欲求を理解できていない「なんかいいな」という感覚が顧客インサイトであると言えます。
顧客インサイトを発見することで無意識でペルソナが良いなと思う訴求が可能になり、広告などの訴求をしなくても自社商品のブランディングが可能になり、自然な購入に繋がりやすくなります。
Step5 自社のポジショニングを決める
これまでの情報をもとに自社のポジショニングについてポジショニングマップを用いて決める必要があります。
ポジショニングマップはサービスのもつ特性を二軸に絞り込み、4象限の中各社の商品を分類し、自社商品の目指すポジションを検討する実践的なアプローチ方法です。
ポジショニングを決定する際は、ターゲットに魅力的に映るためにどのようなポジションが良いのかを競合環境などに鑑みながら決定することができます。
ポジショニングマップで設定する二軸は顧客のニーズと自社の戦略に沿ったものであり、かつ相関性の低い二軸を設定するのがおすすめです。
例えば「価格」と「機能性」を設定してしまうと、両者はある程度相関するものであるため、軸としては不適で有効なポジショニングを見つけ出すことが出来ません。
価格に対して、機能重視かデザイン重視かという軸にすると、相関せずに独自のポジショニングを設定することが可能です。
マーケティングに有効な分析手法・リサーチ活用方法については、こちらでさらに詳しく解説しています。
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ターゲットマーケティングのメリット・効果
ターゲットマーケティングを行うステップを理解したところで、ターゲットマーケティングによるメリットと効果を解説します。
ターゲットマーケティングのメリットは多岐にわたるため、本章では代表的な3つをご紹介します。
費用対効果の最大化
第一のメリットとして費用対効果の最大化が挙げられます。
ターゲットマーケティングを行うことで明確化したターゲットに向けて、限られた経営資源を集中して投下することが可能です。
これはターゲット以外に費やすコストを抑えやすくなるためであり、例えば、ターゲットが不明瞭な状態で不特定多数に向けた広告宣伝をかける場合に比べてコストをカットすることが可能です。
また集客の段階からターゲット層を絞れるため、顧客の獲得や育成にかかるコストも抑えられ、企業の中でも大きな割合を占めるマーケティングに係る費用をカットすることで会社の利益にも直接的に影響します。
競合優位性の構築
ターゲットが絞られて、顧客の脳内で想定通りのポジショニングマップで認識をされると競合優位性の構築にも繋がります。
「○○と言えばあのサービス」という状態で顧客に認識されている状態ですので、競合がその認知をあとから変えることは非常に困難です。
逆に言うと、すでに「○○と言えばあのサービス」という認知が出来上がっている市場に対して、自社が後発的に参入していくのは覚悟が必要です。
競争優位性を構築することで強みを生かしてブルーオーシャンな市場で利益率も比較的高水準でビジネスを行うことが出来るなど追加の波及メリットも生まれます。
ロイヤルユーザーの獲得
ターゲットマーケティングが成功するということは、1つのブランドとしてターゲットに認知されるということでもあります。
先述のように「○○と言えばあのサービス」というブランド認知の状態が出来ると、他のサービスでは代替できないものとしてロイヤルユーザーの獲得に繋がります。
全方位的なマーケティングをしている企業と比較して、ターゲットを絞ってマーケティング活動を行うと、ロイヤルユーザーの割合が増える傾向にあります。
ロイヤルユーザーを獲得することで紹介や口コミによる新規ユーザーの獲得、顧客生涯価値(LTV)の上昇、利益率の上昇などが見込めます。
ターゲットマーケティングの事例
ターゲットマーケティングのメリットが多く存在することはご理解いただけたかと思います。
本章ではターゲットマーケティングの事例をご紹介します。
飲食メーカーAの事例
飲食メーカーAはカフェ事業を提供する企業です。
飲食メーカーAは幅広い年代の男女や職業でセグメンテーションを実施し、10代後半以降をターゲティングに設定しています。
飲食メーカーAでは時間帯によってターゲットを変えており、朝は会社員、昼は主婦層やノマドワーカー、夜は仕事帰りの会社員というようにシーンに合わせた設定をしています。
ポジショニングの点では、多くの競合が店内での長期滞在を前提としていないなか、自宅や職場に次ぐ「サードプレイス」として作業をしたい層に支持されています。
アパレル業Bの事例
アパレルBは代表的な服飾ブランドです。
アパレル業界では服に興味のある人に対して、いかに差別化するかが着目されていましたが、アパレルBのターゲットは「服に興味がない人」でした。
服には興味がない人はおしゃれな服が欲しいのではなく、安くて外で着ても恥ずかしくない服が欲しいというインサイトが存在しました。
そのインサイトに対して、アパレル業Bでは安価でシンプルだが安見えしない商品を提供する企業として顧客のイメージ定着を図り成功した事例です。
ターゲットマーケティングについては、電通マクロミルインサイトにご相談ください
本記事では「ターゲットマーケティング」の意味からその実施方法、そして事例などを紹介しました。
顧客のニーズもかつてより多様化している現代において、ターゲットマーケティングの考え方は非常に重要です。
全方位的にメッセージを届けるというマーケティング手法から、少しずつでもターゲットマーケティングを取り入れることがおすすめです。
本記事でご紹介したターゲットマーケティングの手法が参考になれば幸いです。
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