マーケティングでは消費者の心理や行動を理解することが最重要といわれますが、消費者が購入を決定するまでにはどういったプロセスを経ているのでしょうか。
その理解の鍵の一つとして、古くから使用されているAIDMAというモデルがあります。
また近年では、現代のネット環境やSNS利用状況を踏まえたうえでAIDMAから派生した様々な消費者行動モデル・フレームワークも数多く誕生しています。
この記事では、基本となる消費者購入モデルの1つであるAIDMAと、さらにそこから派生した様々なモデルについて解説いたします。
目次
AIDMAとは
「AIDMA」とは、消費者の購買決定にいたるまでの行動・心理状況を次の5つのステップに分類したモデルです。今から約100年前に、サミュエル・ローランド・ホールが提唱したといわれています。
Attention (注意): 消費者が製品やサービスを認知、注目する段階。
Interest (興味): 消費者が製品やサービスに興味を持ち始める段階。
Desire (欲求): 製品やサービスに対する具体的な欲求が生まれる段階。
Memory (記憶): 消費者が製品やサービスを記憶に留める段階。
Action (行動): 実際に製品やサービスを購入決定・実行する段階。
各ステップは連続しており、マーケティング活動は消費者がこれらのステップを順調に進めるように設計していく必要があります。
Attention(注意)
「Attention(注意)」の段階では、消費者(生活者)はまだ商品・サービスについて「知らない」状態です。
そのためマーケティングの目的としては、まず「認知」してもらうことが必要です。
施策の例としては、街中の鮮やかな広告看板やテレビCM、ソーシャルメディア上の目を引く投稿などが該当します。この段階の主な目的は、ターゲットとなる消費者の関心を引き、他の多くの情報の中から製品やサービスを際立たせることです。
Interest(興味)
「Interest(興味)」の段階では、消費者は商品やサービスについて「知っているが興味はない」状態です。
売り手としては、「商品理解」をしてもらい、興味を抱いてもらうことが重要です。
商品の認知だけでなく、具体的な効果や効能を知ってもらうことで、興味を湧かせたり、自分の悩みが解決できると知ることで、消費者が「自分事化」してもらえるようにする段階です。
Desire(欲求)
「Desire(欲求)」の段階は、消費者は「興味があるが欲しくない」状態です。
そのため、「欲求」を抱かせるようなマーケティング・プロモーション施策が求められます。
例えば、無料サンプル申し込みや資料請求などを促進するような施策が有効で、消費者が製品やサービスに対して実際の購入意欲を持ち始める段階に移行するのがポイントです。
MEMORY(記憶)
「Memory(記憶)」の段階では、「欲しいと思ったが覚えていない」という段階です。
そのため、長期的な記憶にとどめて購買促進を図る施策が求められます。
Action(行動)
最終段階の「Action(行動)」では、商品やサービスを購入してもらう段階です。
消費者はまだ「覚えているが、購買機会がない」状態のため、購入を後押しする施策が求められます。
例えばダイレクトメールなどで、特別キャンペーン情報や限定オファーなどを知り、最終的な購入に至れば、AIDMAのプロセスが完了します。
AIDMAと類似したフレームワークとAIDMAとの違い
消費者の購買行動は時代とともに変化しており、AIDMAから様々な形に進化しています。
AISAS、AISEAS、AISCEAS、SEAMS、SIPSについてそれぞれ解説していきます。
AISAS(アイサス)
AISAS(アイサス)モデルは、インターネットでの購入が主流になった2004年に(株)電通が提唱したフレームワークで、主にデジタルマーケティングやインターネットの文脈で使用されます。
AISASは以下の5つのステップから成ります。
AISASの5つのステップ
Attention (注意): 消費者が商品やサービスに気づく段階。
Interest (興味): 商品やサービスに対する興味を持ち始める段階。
Search (検索): 興味を持った消費者がオンラインで情報を検索する段階。
Action (行動): 商品やサービスを購入する行動に移る段階。
Share (共有): 購入経験や商品に関する情報を他人と共有する段階。
最初のAttention (注意)とInterest (興味)は、AIDMAと同様ですが、最大の特徴は、「Search」(検索)と「Share」(共有)の2つの要素の追加です。
インターネットやソーシャルメディアの普及により、消費者は製品に興味を持った際にオンラインで自ら情報を検索し、購入後に自身の経験をSNSに書きこみ、他の人と共有することが一般的になりました。購買プロセスにおいて、口コミやソーシャルメディア上での製品レビューが重要な役割を果たすように変化した点を反映しています。
AISCEAS(アイシーズ)
AISCEAS(アイシーズ)モデルとは、AISASの行動プロセスをさらに詳細に分解し、発展させたフレームワークです。
AISCEASは以下のステップで構成されます。
AISCEASの7つのステップ
Attention (注意): 消費者が製品やサービスに気づく段階。
Interest (興味): 製品やサービスに対する興味を持ち始める段階。
Search (検索): 興味を持った消費者がオンラインで情報を検索する段階。
Consideration (検討):消費者が複数の商品・サービスの検討を行う段階。
Evaluation (評価): 消費者が比較をしたうえで、購入するか検討する段階。
Action:消費者が実際に商品を購入する段階。
Share:消費者が商品についてSNSなどで共有する段階。
AISCEASモデルの特徴は、「Consideration」(検討)と「Evaluation」(評価)のステップの追加です。これらのステップは、消費者が製品やサービスを検索した後、購入前にさらに、検討と評価を慎重に行うことを表しています。SNSが普及した現代では、消費者は詳細なレビューや評価を参照し、比較検討に時間をかけることが増加してきています。
AIDMAが旧来のマーケティングコミュニケーションに重点を置いているのに対し、AISASやAISCEASはデジタル化された現代の購買行動と、情報に基づく意思決定のプロセスをより深く反映しています。
SEAMS®(シームズ)
(株)電通が新たに提唱している購入モデルに、SEAMS®(シームズ)があります。
先程解説したように、(株)電通ではAIDMAをインターネット社会に適応・進化させたAISASを提唱しましたが、両者ともに最初のプロセスは「Attention(注目)」と「Interest(興味)」が共通していました。
AISASが提唱された2000年代初頭と比較して、現代ではさらにSNSのサービスが台頭・利用が増加し、一億総回遊時代といえる状況を反映したモデルです。
Surf(回遊):特定のSNS上で自分に合った情報・コンテンツを眺め続ける段階
Encounter(遭遇):なんとなく楽しいコトや新しいモノはないか、漠然とした意識でSNSやコミュニティ等を目的無く回遊する中で、全く知らない商品の気になる投稿と偶発的に遭遇して一気に強い興味を持つ段階
Accept(受容): 情報回遊時に、全く知らない商品の気になる投稿と偶発的に遭遇して一目惚れした際に、インフルエンサーなどの「あの人」が語っているからという人起点の信頼が裏付けとなって商品を受容し、衝動買いをする。
Motivation(高揚):ワクワクして購入したその商品やブランドを手にした際に、期待通り、あるいは期待以上だった時には、強い「瞬間的高揚感」が訪れる段階
Share(共有):AISASのモデルにおけるShare以上に、厳選したもののみを投稿することで、価値が高い情報が共有されている段階
AISASは広く消費者の認知を獲得して、興味を抱かせ、検索してもらうモデルであり、マスプロダクトとして定番づくりを行う際に有効なコミュニケーションモデルとして機能していました。
一方、新たに提唱されているSEAMS®は、情報回遊を起点として、消費者のモチベーションを高めていくことで衝動買いや共有を生み出すモデルです。これはコミュニティにおける「熱狂づくり」に有効なコミュニケーションの方法です。スマホでのブランドや商品との出会いで「熱いファン」を作り出すことや、CGMやインフルエンサーの活用でECサイトの売上アップにつなげることが期待できるといわれています。
参照:AISASからSEAMSへ!「情報回遊」時代のマーケティングとは
SIPS(シップス)
SNSの普及により、ソーシャルメディアマーケティングを想定して消費者の心理を反映した消費者行動モデルにSIPS(シップス)も提唱されています。
SIPSモデルは、以下の4つのステップで構成されています。
Sympathize(共感):商品やサービス、企業の姿勢などに魅力を感じ、共感する。
Identify (確認): 共感した内容が正しいか確認する。
Participate(参加):製品やサービスを購入する、またはいいねやフォロー、リポストなどの反応
Share&Spread (共有と拡散): 購入した製品やサービスに関する体験を共有する。
まず最初は「共感」から始まるのが特徴的です。共感する対象としては、商品やサービスだけでなく、企業の姿勢やポリシーといった点も含まれます。
さらにその次にその共感した内容が本当に正しいのか口コミなどを基に「確認」するステップを経て、初めて行動に移します。その行動は商品・サービスの購入といったアクションだけでなく、いいねやフォロー、リポストといった非購買の行動も含まれるため、「参加」と提唱されています。その次に共有と拡散が起こることで、さらに他の消費者の共感が生まれる、という循環式のモデルです。
AIDMAをマーケティングに活用することのメリット
ペルソナ像をより具体化できる
AIDMAモデルをマーケティングに活用するメリットの一つとして、「ペルソナ像をより具体化できる」ことが挙げられます。
ペルソナとは、ターゲット顧客の代表的なプロフィールを作成することを指し、ユーザーの行動パターンやニーズ、関心事を理解するのに役立てるマーケティングの手法の1つです。
AIDMAモデルを用いることで、消費者が製品やサービスに対してどのように認知し、興味を持ち、欲求を抱き、記憶し、最終的に行動に移すかを段階的に分析できます。この分析を通じて、ペルソナの興味やニーズをより深く理解し、ターゲットに合わせた効果的なコミュニケーション戦略を練ることが可能になります。
例えば、健康志向の30代男性をペルソナとする場合、彼らがどのような健康情報に注意を向け、どの健康製品に興味を持ち、どのポイントで欲求を抱くかを特定し、それに基づいてマーケティング戦略を展開できます。
マーケティング施策の見直し・最適化を図れる
AIDMAモデルを活用することで、マーケティング施策の見直しと最適化が可能になります。
このモデルは、消費者の購買決定プロセスを段階的に捉えるため、各フェーズにおけるマーケティング活動の効果を詳細に分析できます。
例えば、特定の広告キャンペーンが消費者の「注意」を引くのには効果的であるものの、「興味」や「欲求」を十分に刺激できていない場合、その点を改善するための具体的なアクションを計画できます。また、どのフェーズが最も弱いかを特定し、そのフェーズを強化するための戦略を策定することもできます。
また、商品の興味を引き起こす要素が不足していると分かれば、製品の特徴や利点をより鮮明に伝えるコンテンツに注力するなどの改善策が考えられます。このように、AIDMAモデルを通じて各フェーズを詳細に分析することで、全体のマーケティング戦略をより効果的に見直し、最適化することが可能です。
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AIDMAは消費者の購買行動を各段階に分解し、段階毎に必要なマーケティング・プロモーション施策のヒントとなるフレームワークです。インターネット環境やSNSサービスの状況により様々な派生・進化したフレームワークも登場しましたが、まずは基本となるAIDMAの理解が重要となります。
また、AIDMAに代表される各購買行動のフレームワークの活用とそれに合わせたマーケティング施策の展開には、消費者の理解が欠かせません。
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