自社のブランドについて考えたとき、「どんな機能があるか」は説明できても、「どんな性格の人か」と聞かれた場合、即答は難しいのではないでしょうか。実は、多くの企業が機能や価格競争に巻き込まれてしまう原因の一つは、この「人格」の欠如にあります。
この記事では、顧客から選ばれ続けるブランドを作るために欠かせない「ブランドパーソナリティ」について解説します。自社ブランドを魅力的な「人物」として定義し、競合と差別化するための具体的なアクションを浮かび上がらせるためにも、自社のブランドについて深掘りしていきましょう。
目次
ブランドパーソナリティとは?
まずは、ブランドパーソナリティという言葉の定義と、ブランディングにおいて混同されやすい他の用語との違いについて整理していきましょう。
ブランドを人間に例えた際の人格や特性のこと
ブランドパーソナリティとは、その名の通り「ブランドの人格」のことです。もしもそのブランドが人間だとしたら、どんな性格で、どんな話し方をして、どんな服を着ているかを表す特性を指します。
私たちは友人や同僚に対して、「あの人は誠実だ」「あの人はユニークで面白い」といった印象を持ちます。それと同じように、消費者もブランドに対して人間的な特性を感じ取ります。単なる無機質な商品やサービスに「人間味」を持たせることで、顧客はブランドに対して親近感や愛着を抱くようになります。
ブランドアイデンティティやイメージとの違い
ブランディングの用語は似たものが多く混乱しがちですが、それぞれの役割は明確に異なります。それぞれの違いを整理して理解しておきましょう。
用語 | 意味・役割 | 具体例(視点) |
ブランドパーソナリティ | ブランドの人格・性格 | 「誠実で信頼できる人」 |
企業側が「こう見られたい」と掲げる旗印 | 企業から顧客への発信 | |
顧客側が「こう見ている」と抱く印象 | 顧客から企業への認識 |
ブランドパーソナリティは、企業が掲げる「アイデンティティ」を顧客に正しく伝え、理想的な「イメージ」を形成するための架け橋となる重要な要素です。これがズレていると、企業が伝えたい魅力が顧客に正しく届きません。
なぜブランドパーソナリティが必要なのか?
似たような商品やサービスが溢れる現代において、なぜあえて「人格」を定義する必要があるのでしょうか。ビジネスに与える主なメリットを3つの視点から解説します。
競合他社との明確な差別化要因になる
現代は商品やサービスの機能的な差がほとんどないコモディティ化の時代です。スペックや価格だけで勝負しようとすると、すぐに競合に追いつかれ、価格競争に陥ってしまいます。
しかし、「人格」は真似できません。例えば、同じコーヒーを提供するチェーン店でも、スターバックスとドトールでは受ける印象が全く違います。これは、それぞれのブランドが独自の人格を持ち、それに共感するファンがついているからです。機能ではなく「好きだから選ぶ」という理由を作ることが、最強の差別化になります。
顧客との感情的なつながりを構築できる
人は論理だけで物を買うわけではありません。「自分を表現してくれる」「自分の憧れを体現している」と感じるブランドを選びます。ブランドパーソナリティが明確であれば、顧客はブランドに自分自身を重ね合わせたり、パートナーのような存在として認識したりします。
この感情的な結びつき(情緒的価値)は、長期的な顧客ロイヤルティを生み出します。一度ファンになった顧客は、多少価格が高くても、他社製品に浮気することなくそのブランドを買い続けてくれるようになります。
クリエイティブやコミュニケーションが一貫する
ブランド担当者や制作に関わるメンバーの間で、「このブランドらしさ」が共有されていないと、広告のデザインやSNSの投稿内容にブレが生じます。担当者が変わるたびに発信内容が変わってしまっては、顧客は不信感を抱きます。
「うちのブランドは、こういう時は丁寧な言葉を使う」「こういう派手な色は使わない」といった判断基準がパーソナリティとして定義されていれば、誰が担当しても一貫性のあるコミュニケーションが可能になります。これにより、ブランドイメージが強固に蓄積されていきます。
代表的なフレームワークとは?
ブランドの「人格」という抽象的な概念を具体化するためには、先人の知恵であるフレームワークを活用するのが近道です。ここでは、世界的に活用されている2つの代表的な手法を紹介します。
アーカーの「ブランドパーソナリティの5次元」
ブランドの人格を定義する際、世界的に最もよく使われているのが、ジェニファー・アーカーが提唱した「5つの次元(The Big Five)」です。人間の性格分析をブランドに応用したもので、以下の5つの要素のどれに当てはまるかを考えることで、方向性を定めやすくなります。
次元 | 特徴的なキーワード | 該当するブランドのイメージ |
誠実さ (Sincerity) | 正直、健全、実直、温かい | 家族的で安心感のあるブランド |
興奮 (Excitement) | 大胆、活発、想像力豊か、最新 | 若々しく刺激的なブランド |
能力 (Competence) | 信頼できる、知的、成功、技術 | 専門性が高く高機能なブランド |
洗練 (Sophistication) | 上品、魅力的、高級、優雅 | ラグジュアリーで憧れのブランド |
強靭さ (Ruggedness) | アウトドア、タフ、男性的、頑丈 | 力強く野性味のあるブランド |
自社がどの次元をメインに据えるかを決めることで、目指すべき方向性がクリアになります。
アーキタイプ(元型)論を活用した12の分類
もう一つ有名なのが、心理学者ユングの理論を応用した「12のアーキタイプ」です。物語の登場人物の役割に例えてブランドを分類します。
例えば、「ヒーロー(英雄)」タイプは困難に立ち向かい結果を出すブランド(例:Nike)、「ケアギバー(世話をする人)」タイプは他者に奉仕し守るブランド(例:ジョンソン・エンド・ジョンソン)などが挙げられます。ストーリー性を重視したい場合は、このフレームワークを使うと、顧客がどんな物語を求めているかを理解しやすくなります。
設定するための具体的な手順は?
ブランドパーソナリティは、単なる思いつきや直感で決めるものではありません。顧客、競合、そして自社の内面を分析し、戦略的に導き出すための具体的な4つのステップを解説します。
ターゲット顧客の理想や自己投影を分析する
まずは、「誰に」愛されたいかを明確にします。ブランドパーソナリティは、ターゲット顧客が「自分もこうありたい(理想)」と感じるか、「自分と同じだ(共感)」と感じるものである必要があります。
ターゲットの年齢や性別だけでなく、彼らがどんな価値観を持ち、どんなライフスタイルに憧れているかを深掘りしましょう。ターゲットが「休日は友人とバーベキューをして過ごす活発な人」なら、ブランドも「社交的で明るい友人」のような人格を持つのが効果的です。
競合ブランドのポジションを把握して隙間を探す
次に、競合他社がどのようなパーソナリティを持っているかを分析します。競合が「高機能で真面目なエリート」というポジションを取っている市場で、自社も同じような人格で勝負しても埋もれてしまいます。
あえて「親しみやすくユーモアのある隣人」というポジションを取ることで、競合に飽きている層や、堅苦しさを嫌う層を取り込めるかもしれません。競合マップ(ポジショニングマップ)を作成し、空いている感情的なポジションを探すことが重要です。
自社の強みや歴史から提供価値を言語化する
顧客と競合を見た後は、自社の内面を見つめ直します。嘘のパーソナリティを作っても、実態が伴わなければすぐに見抜かれます。創業者の想い、企業の歴史、商品の独自技術など、自社が本来持っているDNAは何でしょうか。
「うちは昔から、不器用だけど嘘はつかない物作りをしてきた」という事実があるなら、「無骨だが信頼できる職人」というパーソナリティがしっくりくるはずです。事実に基づいた人格設定こそが、長期的な説得力を生みます。
キーワードを選定してトーン&マナーに落とし込む
方向性が決まったら、具体的な形容詞(キーワード)を3〜5つ選び出します。例えば「情熱的な」「革新的な」「遊び心のある」といった言葉です。そして、それをデザインや言葉遣いのルール(トーン&マナー)に変換します。
要素 | 具体的な落とし込み例 |
ロゴ・フォント | 丸みのある書体か、角張った書体か |
配色 | エネルギッシュな赤か、知的な青か |
言葉遣い | 「〜です」と丁寧か、「〜だぜ」とフレンドリーか |
写真の雰囲気 | 自然光の日常風景か、スタジオ撮影のクールな画か |
ここまで具体化することで、初めて「使える」ブランドパーソナリティが完成します。
運用の際の注意点は?
ブランドパーソナリティは、一度決めて文書化すれば完成というわけではありません。長期にわたって顧客の信頼を勝ち取り、ブランドを成長させていくための運用のポイントを確認しておきましょう。
時代や顧客の変化に合わせて微調整を行う
ブランドパーソナリティは一度決めたら変えてはいけないものではありません。人間が成長して変化するように、ブランドも時代の空気感や顧客の価値観の変化に合わせて進化する必要があります。
例えば、かつて「男性的でタフ」が売りだったブランドも、ジェンダー観の変化に合わせて「誰にでも開かれた力強さ」へとニュアンスを変える必要があるかもしれません。根幹のDNAは守りつつ、表現方法は柔軟にアップデートしていきましょう。
社内全体で共通認識を持ち言動を一致させる
最も避けたいのは「言っていることとやっていることが違う」状態です。広告では「環境に優しい誠実な人格」を演じているのに、カスタマーサポートの対応が冷酷だったり、不祥事の対応が不誠実だったりすれば、ブランドへの信頼は一瞬で崩壊します。
ブランドパーソナリティは、マーケティング部署だけの持ち物ではありません。営業、製造、サポートなど、全社員が「うちのブランドなら、こういう時どう振る舞うか?」を理解し、体現することが求められます。インナーブランディング(社内浸透)もセットで行うことが成功の鍵です。
ブランドパーソナリティを確立するためのマーケティングリサーチなら電通マクロミルインサイトにご相談ください
当記事では、ブランドパーソナリティについて解説してきました。 この記事の要点をまとめます。
- ブランドを人間に例えた際の人格をブランドパーソナリティと定義します
- 機能での差別化が難しい現代において感情的なつながりと独自性を生み出すメリットがあります
- ターゲットの理想と競合の隙間および自社のDNAの3点から一貫した人格を導き出すことで作ることができます
ブランドパーソナリティを設定することは、単なるキャラ作りではなく、顧客と長く深い関係を築くためのビジネス戦略そのものです。まずは自社のブランドを「一人の人間」として想像することから始めてみてください。きっと、今まで見えてこなかった新しい魅力や伝えるべきメッセージが見つかるはずです。
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