目次
ブランド戦略とは
ブランド戦略とは、企業や製品・サービスが市場においてどのような「ブランド」として認知され、選ばれる存在になるかを計画的に設計・構築する戦略のことです。単なるロゴやデザインの話ではなく、誰に、どのような価値を、どのように伝えるかを定める中長期的な取り組みです。
企業が競合との差別化を図り、顧客との継続的な関係性を築くためには、このブランド戦略が不可欠です。近年は、モノやサービスの機能面だけでは他のブランドとの差別化が難しくなっており、「このブランドだから選ぶ」という顧客との感情的な結びつき、即ち顧客エンゲージメントが重要視されています。
ブランド戦略とブランディングの違い
「ブランド戦略」と「ブランディング」は混同されがちですが、両者は役割が異なります。
- ブランド戦略は、ブランドをどのような存在として確立したいかを定める“設計図”のようなものです。誰に、どんな価値を届け、どのようなポジションを獲得するのかを明確にする計画段階にあたります。
- 一方、ブランディングは、その設計図をもとに実際に行う具体的な“活動”を指します。たとえば、ロゴ・広告・プロダクトデザイン・SNSなど、顧客接点でブランドのイメージを形成していくすべての施策が含まれます。
つまり、ブランド戦略=考え方の軸、ブランディング=具体的な実行アクションと捉えると分かりやすいでしょう。
ブランド戦略とマーケティングの違い
ブランド戦略とは、「自社や商品・サービスを、顧客にとってどのような存在として認識させたいか」を中長期的に設計する戦略です。誰に、どんな価値を、どのように伝えるのかを定め、ブランドの核となる方向性を築きます。
これに対しマーケティングは、そのブランド戦略に基づき、広告や販促、PR、チャネル設計などの具体的な施策を展開する活動です。
つまり、ブランド戦略はマーケティングの上位概念であり、戦略が“設計図”、マーケティングが“実行部隊”という位置づけになります。たとえば「信頼感」を軸とするブランドであれば、マーケティング活動全体がそのイメージを体現する必要があります。両者が連動することで、一貫したブランド体験を顧客に届けることができ、結果として選ばれるブランドへと成長していきます。
ブランド戦略を立てるメリット
ブランド戦略を明確に立てることは、単なるブランドイメージづくりにとどまらず、企業活動全体に大きなメリットをもたらします。特に、競合との差別化、顧客との長期的な関係構築、広告・販促施策の一貫性確保といった点で、ブランド戦略は企業の成長を支える重要な要素となります。
競合との差別化ができる
市場において似たような製品やサービスが多く存在する中で、機能や価格だけでは差がつきにくくなっているのが現状です。そこで有効なのが、ブランド戦略による差別化です。
たとえば、「安心・信頼感のあるブランド」「革新的で先進的なブランド」など、機能を超えた“意味”や“価値観”を訴求することで、競合にはない独自のポジションを築くことが可能になります。
このように、ブランド戦略は“何を”ではなく、“なぜそのブランドなのか”という理由を顧客に提供し、競争優位性を生み出します。
顧客との関係性を強化できる
ブランドは、一度認知されただけでは意味がなく、顧客との継続的な信頼関係を構築することが本質的な価値となります。ブランド戦略をしっかりと立てることで、ブランドの核となる価値や世界観が明確になり、顧客との感情的なつながりを深めることができます。
たとえば、同じ商品を購入する場合でも、「あのブランドが好きだから」「あの会社に共感しているから」という理由で選ばれることが増え、リピートの獲得やブランドロイヤルティ向上にもつながります。
広告・プロモーションの指針になる
ブランド戦略が明確になっていれば、広告・販促施策の軸がブレずに、一貫性のあるメッセージを発信できるようになります。メディアやチャネルが多様化する中で、どのタッチポイントでも同じブランド体験を提供することが重要です。
たとえば、ブランドのトーン&マナー、ビジュアル、コピー表現などが統一されることで、顧客の記憶に残り、広告の効果も高まります。また、新たなキャンペーンを打つ際も、ブランド戦略に沿って企画・設計できるため、意思決定のスピードや精度が上がります。
ブランド戦略失敗のリスク
ブランド戦略は企業価値を高め、顧客との強い結びつきを生む強力な武器となりますが、その一方で戦略が曖昧、または運用が不十分な場合にはリスクも伴います。
特に、社内外での認識のズレ、ブランド毀損、顧客とのギャップなどは、戦略的に対応しておかなければ企業にとってマイナスに働く可能性があります。
社内外での認識のズレ
ブランド戦略は、経営層・マーケティング部門・営業・カスタマーサポートなど社内すべての部署で共通認識を持つ必要があるにもかかわらず、それが浸透していない場合、「言っていることとやっていることが違う」状態が生まれます。
たとえば、広告では「お客様第一」を掲げているのに、実際のカスタマーサポートが形式的だったり、営業現場で価格優先のセールスをしていたりすると、顧客からの信頼を失いかねません。これはブランドにとって致命的なダメージになり得ます。
中途半端な運用によるブランド毀損
戦略だけを立てて満足し、具体的な施策に落とし込まずに放置してしまうと、ブランドの一貫性が保てず、むしろブランドイメージがぼやけてしまうことになります。特に、SNSなどリアルタイムに反応が可視化される時代においては、ブランド表現のちぐはぐさが即座に指摘されるリスクもあります。
また、短期的なキャンペーンでブランド価値と逆行するようなプロモーションを行うことも、戦略不在の運用が招く落とし穴のひとつです。
顧客ニーズとの乖離
ブランド戦略が内向きになってしまい、顧客ニーズや市場の変化に対応できないまま固定化してしまうことも大きなリスクです。「昔はよかったが、今の時代には響かない」といった状態になると、かえってブランドが足かせになります。
ブランドは長期的に育てるべき資産ではありますが、時代や顧客の変化に応じて柔軟に見直すことも必要です。ブランドの「軸」は守りつつ、表現や届け方はアップデートする意識が重要です。
ブランド戦略の立て方【6つのステップ】
ブランド戦略を成功させるには、「感覚」や「思いつき」ではなく、論理的なプロセスに沿って段階的に設計することが不可欠です。ここでは、ブランド戦略の6つの基本ステップをご紹介します。
1. 誰に向けたブランドなのかを明確化する(ターゲティング)
ブランド戦略の第一歩は、「誰に向けたブランドなのか」を明確に定めることです。すべての人に好かれるブランドを目指すのではなく、最も価値を届けたい顧客像(ターゲット)を具体的に設定することが不可欠です。
感覚や社内の想像だけでターゲットを決めてしまうのは危険です。顧客理解の精度を高めるためには、調査を活用した客観的なインサイトの把握が重要になります。
たとえば、市場全体の傾向やニーズを把握するためにはアンケート調査やセグメンテーション分析などの定量調査が有効です。一方で、顧客の価値観や購買動機を深く探るには、デプスインタビューやグループインタビューなどの定性調査が適しています。
こうした調査結果をもとに、性別・年齢・職業といった属性情報だけでなく、ライフスタイルや価値観、課題意識などを含めた立体的なターゲット像を描くことで、ブランドの方向性がぶれず、共感を生む訴求軸が見えてきます。
2. ブランドの立ち位置を決める(ブランド・ポジショニング)
次に、競合と比較したときに、自社ブランドがどのような立ち位置を取るのか=ポジショニングを明確にします。
たとえば、「低価格×安心感」「高品質×感性訴求」「スピード×効率」など、競合とは違う軸でブランドを差別化できるかが重要です。ポジショニングマップなどを用いると視覚的にも整理しやすくなります。
3. どのようなブランドなのかを定義する(ブランド・アイデンティティ)
ブランド・アイデンティティとは、ブランドの核となる本質的な価値や個性を明文化したものです。
デービッド・A・アーカー著の「ブランド優位の戦略」によると、ブランド・アイデンティティは、主に4つのカテゴリに分けられる12の要素から構成され、この観点からブランドの「らしさ」が定まり、あらゆる活動の判断軸になります。
製品としてのブランド
- 製品分野、2. 製品属性、3. 品質/価値、4. 用途、5. ユーザー、6. 原産国
組織としてのブランド
7.組織属性(例:革新性、消費者志向、信用)、8.ローカルかグローバルか
人としてのブランド
9.パーソナリティ(例:誠実、武骨な)、10.ブランドと顧客との関係
シンボルとしてのブランド
11.ビジュアルイメージとメタファー、12.ブランドの伝統
ブランド・アイデンティティを構成する要素は、視覚的なデザインから顧客との接点、ブランドのパーソナリティまで多岐にわたります。これらを統一し、一貫性を持って顧客に伝えることで、ブランドの存在感を高めていくことにつながります。
4.ブランドコンセプトを設定する
ブランド・アイデンティティをもとに、外部に伝えるメッセージとしての「ブランドコンセプト」を言語化します。コンセプトは、短く・わかりやすく・心に残る表現であることが理想です。
5.ブランドを象徴するアイテムや体験を設計する
ブランドの世界観や価値を伝えるためには、ロゴ、カラー、タグライン、商品デザイン、店頭体験、Web UI/UXなど、顧客接点を通じた一貫性が必要です。
一目で「このブランドだ」と認識できるような視覚要素や行動体験を設計することで、ブランドの記憶定着が進みます。
また、見た目だけでなく、体験そのものがブランドを形づくる時代になっています。特に、UX(ユーザーエクスペリエンス)やCX(カスタマーエクスペリエンス)といった「体験設計」の重要性が高まっている点は見逃せません。
たとえば、どれほど印象的なロゴや広告を掲げていても、Webサイトの操作性が悪い、店舗の導線がわかりづらい――そういった体験が重なると、ブランドへの評価は一気に下がってしまいます。
逆に、ユーザーにとって「使いやすい」「心地よい」「驚きがある」といったポジティブな体験が設計され世界観や価値を五感や行動を通じて伝えることができれば、それ自体が“ブランドらしさ”として記憶され、ファン化につながります。
このように、ブランドのアイデンティティを「体験として翻訳する」ことが、これからのブランド設計に欠かせないアプローチとなっています。
6. 社内ブランディングを行う(インナーブランディング)
ブランドは社外だけでなく、社内にもしっかりと浸透して初めて強いものになります。
社内向けの研修・社内報・共有資料などを通じて、社員一人ひとりがブランドの担い手として同じ方向を向くことが大切です。顧客接点に立つスタッフの言動や対応こそが、ブランド体験の“最前線”になりえます。
ブランド戦略のポイント
ブランド戦略は一度立てて終わりではなく、中長期的に実行し、磨き続けることで初めて意味を持つ戦略です。ここでは、戦略を効果的に機能させるために押さえておきたい実践上のポイントを解説します。
1. 顧客視点を徹底する
ブランドは企業が一方的に作り上げるものではなく、顧客の中に形成される「認知・印象・体験」の集合体です。したがって、戦略を設計する際には、企業の都合や理想ではなく、顧客がどのようにブランドを受け止めるかという視点が欠かせません。
定期的なユーザー調査やインサイト分析を通じて、顧客の価値観や期待とブランドの方向性にズレがないかを検証しましょう。
2. 一貫性のあるメッセージと体験を設計する
ブランドの印象を左右するのは、広告だけではありません。Webサイト、SNS、営業対応、店頭接客、商品パッケージなど、あらゆるタッチポイントでの“体験の一貫性”が信頼感を生み出します。
そのため、ブランドのトーン&マナー(言葉遣いやデザインスタイル)や対応基準を設け、社内外の関係者で共有することが重要です。一貫性があることで、「このブランドらしい」と感じてもらえる体験が蓄積されていきます。
3. 組織横断で取り組む
ブランド戦略はマーケティング部門だけのものではありません。営業、開発、カスタマーサポート、経営層など、社内のあらゆる部門がブランドを構成する担い手となります。
そのため、部門間でブランドに関する共通認識を持ち、協力しながら実行していく体制が求められます。インナーブランディングやナレッジ共有の仕組みを作ることで、組織全体としてブランド価値を高めることが可能になります。
4. ブランドKPIを設定し、継続的に評価・改善する
ブランド戦略は抽象的に見えがちですが、数値での評価とPDCAの仕組み化が欠かせません。たとえば以下のようなKPIを設定し、戦略の成果を可視化していきましょう。
- ブランド認知率・想起率
- NPS®(ネット・プロモーター・スコア)
- 好意度・信頼度
- SNSでの言及量・感情分析
定期的なモニタリングにより、ズレや変化を早期に察知し、ブランドの方向性を微調整することが成功への近道です。
5. 時代や環境の変化に応じて柔軟にアップデートする
ブランドは「不変の軸」を持ちながらも、社会の価値観や生活者ニーズの変化に応じて進化する必要があります。
変化を恐れず、必要に応じてビジュアルやコンセプト、表現手法を見直すことで、ブランドの“鮮度”を保ち、常に時代との接点を持ち続けることが重要です。
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