近年、マーケティングの手法として「ブランドロイヤリティの向上」がよく話題に挙がるようになりました。
ブランドロイヤリティの向上は、売上拡大・広告宣伝費削減につながる、マーケティング上の重要なポイントです。
しかし「ブランドロイヤリティを向上させたい」と考えていても、具体的に何から手を付けてよいか分からない方も多いかと思います。
そこで本記事では年間多数のブランドに関する調査を実施するマーケティングリサーチ会社として、ブランドロイヤリティの基本的な意味から実際のロイヤリティ向上手法までを具体的にご紹介します。
目次
ブランドロイヤリティとは?
「ブランドロイヤリティ」とはどのような意味なのでしょうか。
本章ではブランドロイヤリティの意味から、混同されがちな「顧客満足度」・「顧客ロイヤリティ」との違いまで詳しく解説します。
「ブランディングについての基本」は、こちらのコラムで解説しています。ぜひご一読ください。
ブランドロイヤリティの意味
ブランドロイヤリティとは特定ブランドに対する消費者の忠誠心、選好度を意味します。
わかりやすく言い換えると消費者にとってそのブランドへの愛着がどの程度あるかを指します。
同じサービス・商品を提供している会社であっても、消費者はブランドごとに選好度を有しています。
例えば、世の中には様々な時計メーカーがありますが、「この時計のデザインが好きだから」、「ブランド設立の背景が素敵だから」などの理由で特定の時計ブランドを選好する消費者が一定数存在します。
このように多くの消費者から忠誠度、選好度の高いブランドは、「ブランドロイヤリティが高い」と言えます。
ブランドロイヤリティと顧客満足度の違い
ブランドロイヤリティとよく混同される単語の1つに「顧客満足度」があります。
顧客満足度とは企業の提供する商品やサービスに対して顧客がどの程度満足しているかの度合いを示す指標です。
ブランドロイヤリティと顧客満足度は「対象」と「示す指標」の2点で異なります。
まずそれぞれが「対象」とするものは下記のとおりです。
- ブランドロイヤリティが特定ブランドを対象とするのに対し、
- 顧客満足度は特定サービス・商品を対象とします。
そして「示す指標」は次のように異なります。
- ブランドロイヤリティが選好度を示す指標なのに対し、
- 顧客満足度は満足度を示す指標となっています。
顧客満足度はブランドロイヤリティを基礎として支えるものです。
▼顧客満足度はブランドロイヤリティの基礎部分
あくまで基礎部分であるため、あるブランドの顧客満足度が高い場合でも、必ずしもブランドロイヤリティが高いとは言えない点に注意が必要です。
「特定のブランドを購入・使用して満足度は高かった(=顧客満足度が高い)が、今後もそのブランドを指名し、積極的に購入するわけではない(=ブランドロイヤリティが高いとはいえない、ブランドへの忠誠心が高いというわけではない)」、という場合もあるからです。
ブランドロイヤリティと顧客ロイヤリティの違い
また同様にブランドロイヤリティと混同される用語として「顧客ロイヤリティ」があります。
顧客ロイヤリティとは、ブランドを提供する企業に対する選好度・忠誠心を示します。
ブランドロイヤリティと顧客ロイヤリティの相違点は「対象」であり、ブランドロイヤリティが特定ブランドを対象とするのに対し、顧客ロイヤリティが特定企業を対象とする点が両者の違いとなっています。
ブランドロイヤリティとブランドエクイティの違い
ブランドエクイティとは、ブランドの価値などを企業資産、資産価値として捉える考え方です。
ブランドロイヤリティは顧客の選行度や購買といった行動や感情に焦点を当てています。
一方、ブランドエクイティはブランドの価値とその市場での位置付けに関する全体的な概念です。
また、高いブランドロイヤリティは、顧客基盤の安定性と収益の持続性を意味します。
一方、高いブランドエクイティは、ブランドが持つ総合的な市場価値と競争優位性を反映するなど、ブランドがもたらす影響の違いなどがありますが、どちらもブランド価値に関わる重要な概念です。
ブランドロイヤリティを高めることの重要性やメリット
かつてのモノが足りない時代からモノがあふれる時代に変わり、さらにインターネット・SNSが発達したことで遠隔地の購買も可能になったため、多くの企業は今まで以上に競合の脅威にさらされています。
そんな現代において、ブランドロイヤリティを高めることは多くの企業にとって非常に重要です。
ブランドロイヤリティを高めることによるメリットは次の3つです。
価格競争からの脱却
まず挙げられるのは価格競争からの脱却です。
先述のようにモノがあふれる現代においては高品質な代替品が多くあり、価格競争に陥っている業界が一定数あります。
価格競争に陥ると企業が疲弊してしまうのが目に見えています。
消費者にとって価格というのは依然大きな要因ですが、ブランドロイヤリティは価格以上に購買意思決定を左右することもあります。
ブランドロイヤリティを向上させ「このブランドだから買う」という顧客層を獲得できれば、価格を値下げする必要性は薄れていきます。
ブランディングとマーケティングの5つの違いや意味、関係性は?
ロイヤル顧客(リピート顧客)数の増加
ブランドロイヤリティを向上させることでロイヤル顧客数を増加させることが可能です。
ロイヤル顧客とは特定ブランドを気に入って、リピート購入をしている顧客を指します。
ロイヤル顧客の増加により売上の面で企業にとって大きなメリットが生まれます。
まずロイヤル顧客は購買頻度、購買単価ともに他の購買顧客より高いことが多く、売上の増加に寄与します。
また購買頻度が高いため売上が安定し易いというメリットもあります。
一般的には、20%のロイヤル顧客が80%の会社の売上に寄与しているとも言われているため、ロイヤル顧客数の増加は大きなメリットと言えます。
広告宣伝費などの抑制
また、ブランドロイヤリティが高まることで、費用面でも大きなメリットがあります。
一般的に広告宣伝費は全体のコストの中で大きな比率を占めますが、ブランドロイヤリティが高まり企業は広告投資を抑制することができます。
ブランドロイヤリティが高い既存顧客は、広告を見なくてもそのブランドを購入してくれます。
またブランドロイヤリティが高いブランドは、既存顧客の紹介・SNSの口コミ・インフルエンサーの紹介などによるタッチポイントが生まれ、自然に新規顧客に対する購買機会が創出されます。
「新規顧客の獲得費用は、既存顧客の販売費用の5倍である」という法則があります。
この法則を考慮にいれると、広告宣伝費に頼らずとも新規顧客の購買機会が創出されるのは非常に大きな意味を持つことが分かります。
ブランドロイヤリティの測定方法
ブランドロイヤリティの向上施策を実施する場合、その効果を定量的に測る指標がなければPDCAのサイクルを回すことは出来ません。
「何をもってブランドロイヤリティが向上した、といえるのか」と、効果を確認するKPIの事前設定が不可欠です。
KPIの策定については、こちらでさらに詳しく解説しています。
KPIモニタリングとアクションについては、こちらでさらに詳しく解説しています。
本章では、ブランドロイヤリティに関するKPIの指標に求められる要件と、実際によく使用される代表的な計測方法を2つご紹介します。
ブランド価値をマーケティングリサーチで測定する方法については、こちらでさらに詳しく解説しています。
ブランドロイヤリティの測定のポイント
ブランドロイヤリティの指標計測に必要な要件は以下3つです。
- 測定可能な定量指標である
- 顧客の選好度を示している指標である
- 財務指標と相関が高い指標である
まず1の定量指標=数値化できる、ということはKPIを設定する以上絶対条件です。
そして2の選好度を適切に示した数値のなかで、
3財務指標(売上、利益など)としっかり連動している指標であることがブランドロイヤリティの計測には必要です。
どの業種・業態にもあてはまる絶対的なブランドロイヤリティ指標というものは存在しないため、よく使われる代表的な2つの指標をご紹介します。
NPS®(Net Promoter Score)
1つ目はNPS®(Net Promoter Score)の略で、そのブランドに対する顧客の推奨意向、つまり「そのブランドを他者に紹介したいか」を数値化した指標です。
NPS®の測定方法
NPS®は次の4ステップで導き出します。
1.「あなたがこの企業(製品/サービス/ブランド)を友人や同僚に薦める可能性は、
どのくらいありますか?」という質問を消費者に行う
2.消費者は質問に対して0(薦めない)~10(薦める)の11段階で
自分に当てはまる選択肢を回答する
3.上記のアンケート結果で、10~9と答えた集団を推奨者(Promoter)、
8~7を中立者(Passive)、6~0を批判者(Detractor)の3つに分類
4.「推奨者」-「批判者」の割合の差をNPS®指標として算出する
NPS®の測定方法
NPSのメリット
NPS®は非常によく用いられる指標であり、様々なメリットがあります。
まず計測方法が簡単なため理解がしやすく、同じ質問で統一して実施が可能なため、競合他社と比較した際の立ち位置などが分かりやすい点です。
またNPS®は業績との大きな相関関係も認識されており、経営分析に利用できるというのも広く用いられる理由の一つです。
NPS®の注意点
一方で日本での実施においては注意が必要です。
日本人は謙虚な性格の方が多く、回答が中心の5,6付近に集中しやすく、「批判者」として計上されてしまうため、実態よりも低くスコアが出てしまうことがあります。
確実な指標は存在しないため、こういったデメリットも把握したうえで、ブランドロイヤリティ指標の計測に取り組みましょう。
DWB(Definitely Would Buy)
DWBは「Definitely Would Buy」の略で、その商品を購入したいかどうかを数値化した指標です。
DWBの測定方法
DWBはNPSより簡易的で以下2ステップで計測されます。
- 消費者に対して「絶対に買いたい」・「買いたい」・「どちらでもない」・
「あまり買いたくない」・「全く買いたくない」の5段階でアンケートを取る - その中で最高評価、今回のアンケートだと「絶対に買いたい」を選択した人の割合を、
ブランドロイヤリティの評価とみなす
DWBは商品開発の際などに主に用いられる指標です。
その他、ブランド調査に関するポイントや注意点はこちらでも解説しています。
ブランドロイヤリティを高める方法
次に、ブランドロイヤリティを高める具体的な方法を4つご紹介します。
- ブランドへの愛着や親近感を創出する
- SNSなどでユーザーコミュニティを形成する
- 消費者のニーズにあった商品やサービスを提供する
- ポイントプログラムなどインセンティブの提供
それぞれ詳しく解説していきます。
ブランドへの愛着や親近感を創出する
ブランドロイヤリティは顧客からの選好度・愛着度をいかに引き上げるか、が非常に重要になります。
そのためブランド側からも親近感や愛着の湧くイメージを創出しておく必要があります。
困ったときに都度親身な対応をしてくれるなどの質の高いサービスが親近感・愛着度の醸成に繋がります。
親身な対応という点ではカスタマーサクセスが挙げられます。
カスタマーサクセスの担当者がきめ細やかなフォローをする、商品購入後もしっかりと顧客が満足するまで伴走するといった姿勢が、ブランドロイヤリティの前提ともいえる顧客満足度につながります。
SNSなどでユーザーコミュニティを形成する
SNSなどでユーザー専用のコミュニティを形成するのも有効な方法です。
先述のカスタマーサクセスは従業員によるブランドロイヤリティの向上でしたが、ブランドロイヤリティは消費者を介在して向上することもあります。
例えば、何かポジティブな経験をしたサービスのファンがSNSなどでコミュニティ的に活動している例は多くあります。
コミュニティが生まれれば、その中ですでにブランドロイヤリティが高いユーザーが商品やサービスの良さを紹介、またより良い利用方法などを伝えてくれれば、他のユーザーも感化され全体的なロイヤリティの向上が生じます。
自然発生的なコミュニティの誕生を待ってもよいですが、企業担当者として顧客同士が交流することの出来るユーザーコミュニティを意図的に形成する仕掛けも重要です。
コミュニティの作成方法としては既存SNS内で広報アカウントを作成し、サービスに対する意見を集める、リツイート企画を行うなどして、エンゲージメント率を向上させることが考えられます。
また最近ではコミュニティ機能に特化したサービスもあるので、そういったサービスを用いてユーザーコミュニティの場所を設けることも有効です。
消費者のニーズにあった商品やサービスを提供する
消費者のニーズに合った商品やサービスを提供することは非常に重要でブランドロイヤリティ施策の根幹をなす部分です。
そのためには前述のコミュニティ施策を活用し顧客の生の声を集め、必要に応じてインタビューなどの定性調査も実施し、顧客の声に耳を傾ける必要があります。
多くの顧客の声を商品に反映している例としてD2Cメーカーがあります。D2Cメーカーが近年大きく成長しているのは、顧客と近い位置に居続ける構造が、ブランドロイヤリティの向上につながっているから、と言えるでしょう。
※D2C とは「Direct to Consumer」の略で、「事業者・製造者が直接消費者と取り引きをする」ことを意味します。
常に顧客のニーズはどこにあるのかを探りながらサービス開発を行うことが、ブランドロイヤリティ向上の要となります。
ポイントプログラムなどインセンティブを提供する
少し古典的ではありますが、ポイントプラグラムなどのインセンティブを提供する施策はブランドロイヤリティを高めるうえで有効です。
商品の購入時などにポイントを付与して、次回の買い物やサービスの利用を割引する方法です。
ポイントプログラムの大きなメリットは、少し強引ながらもリピート購買を増やすことにより、ブランドとの接触回数もその分増加させることが出来る点です。
その時のブランドでの体験がポジティブなものであれば、ロイヤルユーザーになることもあるので、ブランド体験の設計を意識しつつ有効に組み込みたい施策です。
ブランドロイヤリティ向上の具体例
ブランドロイヤリティ向上のための施策を、実際に上手く実行している企業の具体例をご紹介します。
スターバックス
言わずと知れたブランドロイヤリティの高い企業がスターバックスコーヒーです。
スターバックスコーヒーはもともとブランドロイヤリティの高い企業として知られていましたが、会員プログラム「スターバックス リワード」によって更なるロイヤリティの向上が生み出されています。
スターバックスではポイント制度をただのポイントに留めず、「より良い体験を届けるためのロイヤリティプログラム」と位置付けています。
2019年にはアプリから注文が出来るモバイルオーダー&ペイも実装し、これにより忙しいお客様にスムーズな商品提供を行えるようになったことで、これまでのターゲット層とは違う顧客にも顧客層が広がっているようです。
参考記事|会員数750万人の「スターバックス リワード」に学ぶ、ロイヤルティプログラムを通じたCX向上はこちら
ウォルマート
次に、アメリカ大手のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートの事例です。
ウォルマートは食料雑貨宅配サービス年額料金を払うと送料が無料になる「Delivery Unlimited」を開始して予想を上回る実績を上げました。
これはウォルマートの配送料が、配送料がオンライン客にとってネックになっていることに着目した施策でした。
これによりDelivery Unlimitedの会員は年中頻繁にウォルマートで買い物をするようになり、ロイヤリティが大きく向上した成功例です。
この他にもウォルマートはプレミアムロイヤルティプログラム「Walmart+(ウォルマート+)」を提供しており、「Walmart+」会員は、送料無料、食料品の無料配達、ガスの割引、など、さまざまな特典を受けることができます。
この事実からもウォルマートがインセンティブ提供による顧客接点の増加を重要視していることが読み取れます。
ブランドロイヤリティ向上施策にマーケティングリサーチを活用したい場合は、電通マクロミルインサイトにご相談ください
本記事ではブランドロイヤリティの意味から具体的なメリット・事例まで解説しました。
ブランドロイヤリティ向上の方法は企業によって様々で最適解はありません。
しかし、すべてに共通しているのは顧客視点で物事を捉える姿勢です。
顧客の生の声に耳を傾け、自社のありたい姿や方向性を定めることがブランドロイヤリティ向上の第一歩となります。
本記事の情報を参考にして、今できるロイヤリティ向上施策から取り組んでいただけると幸いです。
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