「ブランド調査を実施したいが、方法がよくわからない」
「マーケティング活動・ブランディング活動に活かすために調査を検討しているが、どのような点に注意したらいいのか?」
今回はこのような方のために、マーケティングリサーチにおけるブランド調査の概要から手法、設問例や分析方法について詳しく解説します。今後自社ブランドはどのような方向性に、どんな戦略で向かっていくべきかを検討するには、ブランド調査は欠かせません。
ブランド認知度・イメージ・ポジションなどを把握しファクトに基づいた戦略を立てるためにも、ブランド調査を実施する際はぜひこの記事を参考にしてださい。
目次
ブランド調査とは
ブランド調査は、ブランドの状態を把握するための調査です。
そもそもブランドとは何か、からブランド調査の概要、その重要性と注意点まで詳しく解説します。
ブランドとは
AMA(アメリカマーケティング協会)によると「ブランド」は以下のように定義されています。
ブランドの定義の中で特徴的なのは以下の点です。
ブランドは、他の商品やサービスと区別させるためのもの
その商品/サービスが、同じカテゴリーの別の商品/サービスとは違うものだと判断されるための要素
ブランドは、消費者の中に蓄積されたイメージ
良いイメージ、悪いイメージ、偏見、誤解なども含めてその商品/ブランドに対して消費者が心の中に抱くイメージ
色々な要素が混ざり合って形成される複合的なもの
その商品/サービスの実利的な価値だけではなく名称やロゴ、デザイン、またそれを手にした時に感じる情緒的価値も含め、その商品/サービスに対して結果的に形成されるイメージの総体
ブランドとは商品/サービス対して消費者の持つ印象そのものであり、その印象は消費行動に影響を及ぼします。ブランド力とは、その影響の大きさでもあります。
「ブランド(消費者の持つ印象)」が企業の狙い通りの消費者行動を引き出し、企業の利益に貢献していることが理想です。そのため企業はブランドの持つ影響を現状より良いものにしようと活動します。その活動が「ブランディング活動」です。
ブランド調査の重要性
「ブランド(ブランド力)」は、その商品/サービスが長く売れ続けるために重要です。
ブランド力がうまく機能すれば、そのブランドは企業が理想とする消費者行動を引き出します。
ブランド力を引き出すためにはブランドの現状と理想状態を正しく定義し、そのギャップを埋めるための施策が必要です。
「ブランド」は現状を定期的にチェックし、改善を図っていくことが重要です。
また、「ブランド」は消費者の心の中に形成されるイメージのため、常に変化します。
一度形成されたイメージはそのままの状態で保たれるわけではなく、社会情勢(流行や景気など)や、競合の参入などによって消費者の中で変化します。
そのため、企業は「ブランド」を理想的な状態に保つために、現在ブランドの状態(どのように消費者に認識されているか)を把握し続ける必要があります。
ブランドの状態を把握した上で、軌道修正のために必要な施策が日々のマーケティング活動につながります。
企業は自社ブランドの現状を正確に把握し続けるために必要な調査が「ブランド調査」です。
ブランド調査で抑えるべきポイント、注意点
ブランド調査とは、「自社ブランドが消費者にどのように認識されているか」を把握するために実施する調査です。
ポイントは「定期的(定点的)に」かつ「多面的に」調べることだと言えます。また、「指標の設定」「競合との比較」も重要です。
定期的に(定点的)に調査する
前述の通りブランドは現状を正確に把握し続けることが重要なものです。
消費者のイメージは変化するため、健康診断のように定期的に状態を確認することが重要です。
定期的に調査し続けることで経年比較をすることができ、社会情勢の影響やその時期に実施した施策の影響などを確認することもできます。
多面的に調査する
ブランドは色々な要素が混ざり合って形成される複合的なものであるため、複数の要素を調査することが必要です。
様々な側面からブランドを形成する要素について調査し、そのブランドが消費者にどのように認識されているかを把握すると良いでしょう。
調査する複数の要素は、ブランド・エクイティの構成要素を参考に検討します。ブランド認知、ブランドイメージ、品質への評価、ブランドロイヤルティなどについて調査し、それぞれの評価の集合体をブランドの現状であると捉えます。
指標を設定する
ぼんやりと「このブランドのイメージはどうですか?」と聞いても明確な回答は期待できません。
ブランドイメージをわかりやすく把握するためにも、特に着目するべき指標を決めておきます。
・ブランドの購入、リピートに向け重要と考えられる指標やKPI
・獲得したいブランドイメージやベネフィット
指標を調査の前に策定してから調査を実施することをおすすめします。
競合との比較
自社ブランドの絶対評価も重要ですが、市場における自社の立ち位置を把握するために他社比較も重要です。
他社比較をするときは、当該ブランドと他競合2社で調査することをおすすめします。
比較するブランド数が少ない方が1ブランドあたりの回答精度が高くなるため、比較するブランド数は増やし過ぎないよう注意しましょう。
特に時系列の変化を把握する場合は、変化が敏感に反映されやすくなるよう、競合は多く設定しない方がよいでしょう。
ブランド調査を実施すべきタイミング
ここまでブランド調査の概要と重要性を解説しました。
次に、ブランド調査を実施するべきタイミングを解説します。
ブランドの置かれている状況によって、調査の意味合いは変わるため、ブランドのフェーズごとに明らかにするポイントを説明します。
ブランドの導入/開発期
新商品や新ブランドの発売初期は、現在のポジションや状況を把握する必要があります。
またブランドビジョンを策定した後や変更した後、これからブランドのPDCAサイクルを回し始めるタイミングではブランドコンディションを点検しておくべきでしょう。
この時期で実施するブランド調査は特にブランドの現状把握の意味合いが強く、どちらかというと広く浅く様々な視点からブランドを調査します。
ブランド成長期
ブランドが生活者に浸透している時期には、自社ブランドのポジションや競合ブランドのイメージなどを、詳細に深掘りしていく必要が出てきます。
このタイミングではPDCAのチェックとしてブランド調査を実施すると良いでしょう。
これまでのブランドの浸透度合いや施策のブランドに対する影響(施策効果)などを調べ、生活者のブランドに対するイメージや意識の構造を深掘りする形で調査を実施します。
ブランドの成熟/停滞期
ブランドの成長に陰りが見え始めている場合、ブランド戦略を立て直す指針が必要でしょう。
また、新たに強い競合が現れ競争が激化している際には競合との差別化を図るための戦略が必要です。
このようなタイミングでは自社ブランドの強み・弱みを改めて把握し、自社が優位性を持っている要素を抽出する調査を実施し、今後の戦略立案の材料を得ます。
ブランド調査項目の設問例
ブランド調査で聴取する項目には「ブランド認知」、「ブランドイメージ」、「ブランドコンディション」があります。それぞれの項目を具体的に解説します。
ブランド認知度(ブランド想起)を測る場合
まず、消費者がどの程度自社ブランドを認知しているかを調べます。
認知度を測るための質問方法としてブランドの純粋想起、助成想起、認知経路があります。
純粋想起
純粋想起とは、手がかりを与えずに「●●と言えば、何を頭に思い浮かべますか?」という質問の仕方です。
例えば「緑茶飲料といえば?」「食器用洗剤といえば?」 のように、特定の商品カテゴリーを提示して、回答に自社商品/ブランドの名前が挙がってくれば、認知度が高いといえます。
質問文の例: あなたが「緑茶飲料」と聞いて思い浮かブランド名を、思いつく順に5つまでお知らせください。 |
助成想起
助成想起とはヒントなしの純粋想起と異なり、例えばブランド名や商品のパッケージ画像を複数列挙して「次の中で知っているブランドを選択してください」と質問することで、認知度を測る方法です。
比較的安価で商品数が多い食品や飲料などについて測定するときによく用いられます。
質問文の例: 以下の緑茶飲料のうち、ご存知のものはどれですか。当てはまるものすべてを選んでください。 選択肢の例: 1,商品名A 2, 商品名B 3, 商品名C ・・・ |
認知経路
ブランドを認知している消費者に対して、どこでブランドを知ったのかという認知経路を聞く質問項目も重要です。
店頭で見かけたのか、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ・SNSなどのメディアを通して知ったのかを確認することで、消費者とブランドとの接点を把握することができます。
ブランドイメージ・評価を測る場合
ブランドイメージ
ブランドイメージの聴取も、ブランド調査では重要な要素です。
「このブランドについてどのような印象やイメージがありますか?」
と自由回答で調べる方法と、
いくつかのイメージ選択肢を提示し
「このブランドのイメージとして当てはまるものをお選びください。」
という設問から調べる方法があります。
前者は、自由回答のためバイアスが全くない純粋な回答を得られるメリットがある一方で、自由回答であるが故に結果を読み解き分析する手間がかかるデメリットがあります。
後者の選択式は結果の分析はしやすいものの、こちらから提示する選択肢の内容が非常に重要です。選択肢はしっかりと検討する必要があります。
先述の通りブランドイメージを明確に把握し、次の施策に繋げるためにも、調査の前に特に着目するべき指標を決めておく必要があります。
その際、ブランドイメージを「機能ベネフィット」と「情緒ベネフィット」に分けて列挙していくと整理しやすいです。
「機能ベネフィット」とは例えば、使いやすい/原材料にこだわっている/見た目が美しいなどの商品の機能を具体的に指すもので、「情緒ベネフィット」とは信頼できる/遊び心がある/歴史・伝統があるなどの感覚的に受けるイメージのことです。
ブランドイメージを聴取する際の注意点は、上記のように選択肢を提示する場合、調査の後半で聴取するようにしましょう。
ブランドについての認知や好意、ブランドとの関わりはできるだけバイアスのない回答を集める必要があります。
イメージ質問をすることで、調査の対象者が調査の中で何か新しいことを学習してしまったり、新しいイメージを抱いてしまったりするとその後の回答がフラットなものではなくなってしまいます。
そのためイメージを聞く質問は調査の後半で実施しましょう。
競合他社との比較
上記の「ブランドイメージ」については、自社ブランドと競合のブランドを比較して、自社ブランドが相対的に強く持たれているイメージ(獲得できていないイメージ)を調べることも重要です。
調査の中では各ブランドのイメージを、同じ選択肢を提示して聴取します。詳しい分析方法は「ブランドイメージ・認知度調査の手法」で解説します。
ブランドコンディションを測る
ブランドコンディションは、そのブランドが消費者に認知されてから購入(利用)に至るまでの経緯を調べることで把握できます。
具体的にはブランドの認知・興味関心/好意度・購入意向・購入経験(利用経験)を聴取します。聴取する指標は商材やブランドのKPIによって異なりますが、上記の他にも「(商品について)調べた」「人に勧めたいと思った」「人に話した」などの指標があります。
詳しい分析方法は「ブランドイメージ・認知度調査の手法」で解説します。
ブランドイメージ・認知度調査の手法
ここではブランド調査において使われる調査手法と、ブランドイメージやブランドコンディションを分かりやすく分析する手法を紹介します。
調査をする項目や把握したい内容によっておすすめの手法が異なるので、目的に合わせて選択してください。
調査手法①:インターネット調査
ブランド調査において、そのブランドの市場全体(世間一般)での認知度やイメージを把握するにはインターネットを使ったアンケート調査(ネットリサーチ)で定量的に調査するのがおすすめです。
アンケート調査(ネットリサーチ)では比較的低コストかつ短期間で回答を集めることができ、世間一般の中での浸透度やイメージを広く調査することができます。
調査したい内容によって回答者を調整する必要があるため、詳しくは専門の調査会社などに設計を依頼するのが良いでしょう。
例えば世間一般の認知度を測る際には回答者に偏りが出ないよう人口の構成比に合わせる、ブランドのイメージを詳しく調査する際には特定のブランド認知者を調査対象者に設定するなどの工夫が必要です。
調査手法②:インタビュー調査
ブランド調査において、ブランドイメージの理由やそのブランドとの出会いなどを深くヒアリングしたい場合には、インタビュー調査がおすすめです。そのブランドのファンにヒアリングしたり、競合ブランドのユーザーに意見を聞くことでより深く定性的に自社ブランドの分析ができます。
また定量調査をする前にインタビューを実施して、定量調査の中で使うイメージのキーワードを抽出する、定量調査で把握したおおまかな傾向をより深い消費者インサイトとして確認する場合にもインタビュー調査は有効です。
分析手法①:コレスポンデンス分析
ブランド調査において、自社ブランド・競合ブランドのポジションを把握するには、コレスポンデンス分析という手法がとても適しています。
コレスポンデンス分析は、アンケート調査を実施しクロス集計という集計方法で結果を集計したものをマップ上に可視化する分析手法です。
(クロス集計結果を用いて、表側の要素と表頭の要素間の関係性を低次元空間のマップ上にプロットする、多変量解析手法)
コレスポンデンス分析を行うことで、自社ブランドと競合ブランド間のボジション関係をビジュアルで分かりやすく理解することが可能です。
マップ上に各種ブランド、イメージやベネフィットなどの要素を同時にプロットすることで、自社ブランドに対してユーザーが抱くイメージと競合ブランドとの関係性を一度に見ることができます。
数値や言葉ではなく、1枚のマップとしてアウトプットされるため、直感的な解釈がしやすいことが特徴です。
分析手法②:ファネル分析
ブランド調査において、ブランドコンディションを把握する方法としてファネル分析という手法があります。
消費者がブランドを知ってから購入に至るまでの「認知→興味/関心→購入意向→購入」といった一連の経緯に関して、自社ブランドの状態をフェーズごとに数値で把握します。
消費者がどの段階で止まっているのかを可視化できるモデルで、各段階の歩留まりを計算しボトルネックを発見することができます。
ベンチマークとなるブランドも同様の分析をすることで、各フェーズの歩留まりの差を比較することもできます。
ブランド調査における電通マクロミルインサイトの強み
ブランド調査を実施する際には、前述の通り調査手法や分析手法、アンケート項目に工夫が必要です。正確に調査結果を読み解き、ブランド価値向上の打ち手に繋がる調査設計にするためには専門の調査会社に相談されることをおすすめします。
私たち電通マクロミルインサイトは、電通のリサーチエージェンシーとして年間3,000件以上のプロジェクトの実績があります。
この実績を生かしてブランド価値を向上するための様々なノウハウをご提供することが可能です。
①電通の卓越したマーケティングコミュニケーションノウハウ
広告会社として多くのブランド戦略を立案している電通と共同でプロジェクトを実施した経験から、ブランド調査の実施だけでなく、ブランド価値を向上するための具体的なノウハウについても豊富な事例を有しております。
②徹底した生活者理解に基づく、ブランド価値の探索
私たちの強みである、お客様の課題に向き合い多面的なデータの分析によってブランドの課題を特定する、というアプローチはブランド価値向上にも活用できます。
ブランドは生活者の感情を動かすものであり、そのためには生活者の理解が欠かせないからです。
顧客起点のブランド価値の導出をお手伝いいたします。
③データからの示唆読み取り
ブランドは生活者の情緒的な側面を動かすもののため、指標化することは難しい領域です。
その中でも、私たちがアクセスできるデータを活用し、生活者のどのような行動がブランド形成に寄与するか、意識データからブランドに関して読み取れることを探っていきます。
ブランド調査をご検討の際は、実績豊富な電通マクロミルインサイトにお任せください。
マーケティングリサーチのセミナーや自主調査企画も実施。