消費者は商品やサービスを初めて知ってから購入に至るまで、どのように心理や感情が変化し、どのような行動をとるのでしょうか。このユーザーの一連の行動を、詳細に追いかけ可視化するのがカスタマージャーニーマップです。
カスタマージャーニーマップを作成することで、企業は顧客のニーズや疑問点を特定し、マーケティング戦略や顧客サービスを最適化することができます。また、顧客満足度の向上、ロイヤリティの構築、そして長期的なビジネスの成功につながります。
本記事では、カスタマージャーニーマップの重要性、作成方法とポイント、注意点をマーケティング担当の方々に向けて解説していきます。
目次
カスタマージャーニーマップとは
カスタマージャーニー(Customer Journey)は、顧客が製品やサービスに初めて触れて購入に至るまでの過程を示します。直訳すると「顧客の旅」という意味で、購入プロセスの各段階で顧客が経験する心理や態度の変化の過程を可視化します。
一般的には横軸にはユーザーの行動を時系列にとり、縦軸にはその行動時の心理・感情や接触チャネルなどを洗い出します。カスタマージャーニーマップは動的なツールであり、製品や市場のニーズに応じてその項目や焦点を変えることができます。各企業が直面する固有の課題や顧客の行動パターンに合わせてカスタマイズしていくことが重要です。
カスタマージャーニーが重要になっている背景
顧客体験の多様化
現代の消費者は、従来のマス広告や店舗での展開以外に、パソコン・スマートフォン・タブレットなど様々なデバイスを介してWebサイト、アプリ、ソーシャルメディアなど多種多様なチャネルで商品やサービスに接触する機会があります。これにより顧客体験はますます多様化し、単一の販売チャネルや伝統的な広告手法だけでは顧客理解が困難になっています。
カスタマージャーニーを活用してこの複雑化する顧客体験を管理し、最適化することがますます重要になっています。
行動データの蓄積
デジタル技術の進歩により、企業は顧客のオンライン行動、購入履歴、ソーシャルメディアの利用パターンなど、膨大な量のデータを収集できるようになりました。
このデータは、パソコン、スマホなど複数のデバイスをまたいで一貫して顧客の行動を計測可能にします。
ユーザーの一連の行動に関するデータは、顧客の行動や好みをより深く理解し、製品やサービスの接触、興味関心の変化、最終的な購入に至るまでの詳細なインサイトを得る情報源になります。この分析から得られる洞察が、カスタマージャーニーマップの重要性を高めています。
全体視点の必要性
多くの企業では、部署間の縦割りがコミュニケーションを妨げ、顧客体験への影響を全体的に見ることを難しくしています。カスタマージャーニーマップを設定し、部署を横断して関係者間で共通認識を持つことで、広告やコミュニケーションにおける予算やリソースの効果的な配分が可能になります。これは、顧客体験の向上とビジネス成果の両方を達成するための重要なステップになります。
カスタマージャーニーが時代遅れといわれる理由
カスタマージャーニーが「時代遅れ」と言われる背景は、顧客行動の急速な変化とデジタル技術の進化にあります。
現代の顧客は以前に比べてより情報量が増加し、購入決定プロセスも非線形で複雑化しています。従来のカスタマージャーニーはより単純で予測可能な顧客を前提としていましたが、現在の多様で動的な市場では、単純なモデルで顧客行動を正確に捉えきれないことがあります。
そのため、変化する市場や顧客の動向、新しい技術の進展に適応できていない古いカスタマージャーニーのアプローチは、時代遅れとみなされることがあります。
しかし、顧客行動の複雑性が増すからこそ、企業は常に最新の顧客行動の傾向を理解し、適切なテクノロジーを取り入れてカスタマージャーニーマップを更新し続ける必要があります。
カスタマージャーニーを作成するメリット
顧客理解を深めることができる
カスタマージャーニーを作成する最大のメリットは、「顧客理解の深化」です。
カスタマージャーニーマップを通じて、顧客が製品やサービスに触れる様々な接点での体験や感情、ニーズ、行動パターン、決断要因や障壁を可視化できます。
顧客が製品に出会う最初の瞬間から購入後のフォローアップまで、顧客体験の各ステージを詳細に分析することで、顧客の要望や問題点を明らかにできます。この深い顧客理解は、より効果的なマーケティング戦略の策定や、顧客体験の向上、顧客満足度の向上やロイヤルティの構築につながります。
社内で認識の統一ができる
カスタマージャーニーのさらなるメリットの一つは、「社内での認識の統一」があります。
カスタマージャーニーマップは、顧客が製品やサービスに接触する各接点での体験を俯瞰的に可視化し、異なる部門やチーム間での顧客に関する理解のギャップを埋めることができます。これにより、マーケティング、セールス、カスタマーサポートなどの各部門は、共有化されたマップを元に顧客体験とそれぞれの部門の役割や影響を理解し、協力して顧客体験の向上を目指すことが可能になります。マップの共有と効果的な活用により、社内での一貫性のあるメッセージングや戦略を展開でき、顧客に対してより一体化したブランド体験を提供する基盤をつくることができます。
マーケティング施策の目的が明確になる
カスタマージャーニーマップを用いることで、マーケティング施策の目的が明確になります。
顧客が製品やサービスに接する各ステージでの具体的なニーズや問題点が可視化されるため、企業はマーケティング施策を特定の目標や顧客の期待に合わせて最適化できます。
顧客の購入過程における重要なタッチポイントを特定したり、顧客が購入決定をする際の障壁を明らかにすることで、より具体的なコミュニケーション戦略や効果的なキャンペーン/マーケティング施策を実施することができます。
カスタマージャーニーの作成手順
カスタマージャーニーマップは、次のような手順を経て作成されます。
ペルソナの設定
ペルソナとは、理想的な顧客やユーザーを代表する架空の人物で、その特性、ニーズ、行動パターンを具体化したものです。特定のペルソナを基にカスタマージャーニーを作成することで、実際の顧客の行動や感情を反映した体験マップを作成することができます。
ペルソナの要素には、ターゲット顧客の年齢、性別、職業、収入レベル、趣味嗜好、使用するメディアの種類、購入動機などが含まれます。ペルソナは決して憶測で作成するのではなく、アンケート調査やインタビュー、市場調査、既存の顧客データ、ソーシャルメディア分析などから、設定することが重要です。
購買プロセス(横軸)の設定
カスタマージャーニーの横軸は、ユーザー・顧客の購買プロセスです。
これは、顧客が商品やサービスを認知し、購入やリピートに至るまでの一連の行動を時間軸に沿って整理したものです。
商品やサービスの特徴、業態(BtoCかBtoBか)にもよりますが、多くの場合は、下記のようなプロセスを記載します。
・認知・興味
・情報収集、比較検討
・購入・利用・導入
・継続
購買ステップごとのユーザーの行動(縦軸)を整理する
先ほど洗い出した購買ステップごとに、顧客が抱く心理・感情や、行動を洗い出し、整理していきます。
弊社が扱うリサーチサービスを例に取ると以下のようなものになります。
認知・興味
ユーザーが商品・サービスを認知し興味をいだいた状態
例:展示会やセミナーでマーケティングリサーチの説明をうけ、自社課題の整理とリサーチの必要性を感じる
情報収集、比較検討
商品やサービスについて情報収集したり、他サービスと比較検討したり、テスト導入を行う段階
例:リサーチの費用やフィージビリティを明確にするために、マーケティングリサーチの様々な企業のサイトを閲覧したり、調査相談を行ったり、見積をとる。
リサーチの実施は初めてなので、実績やサポート体制が整っている会社に依頼する方が安心なのだろうと気が付く。
購入・利用・導入
実際に商品を購入し、サービスを利用する段階
例:リサーチを実施し、専門用語など行うまでに不明な点も出てきて不安になるが、担当者からリサーチの実施進捗の報告を受け、質問への回答により不明点が解消され、調査レポートもわかりやすく安心する。
継続・ロイヤル化
サービス購入後の状態
例:調査結果を自社内で共有したところ、生活者の声をマーケティング戦略に反映させることの重要性が認識され、継続的に調査を行っていく。
チャネル・タッチポイントとそれぞれのKPIを設定する
チャネルとは、顧客がブランドと接触する媒体や方法(例えばサイト、ソーシャルメディア、店舗など)を指し、タッチポイントは顧客とブランドの間の具体的な接触点(例えば広告クリック、問い合わせ、商品購入など)を意味します。
カスタマージャーニーの作成において、各ステップにおいて有効なチャネルを決め、それぞれのチャネルでのタッチポイントを設計します。
それぞれのタッチポイントにおけるKPIを設定することで、マーケティング施策の実施だけでなく、振り返りや改善をすることができます。
カスタマージャーニーの注意点
ペルソナによるターゲットを明確化する
カスタマージャーニーの作成の最初のステップである、「ペルソナによるターゲットの明確化」は最も重要な点ともいえます。カスタマージャーニーを作成する際、特定のペルソナを基にすることで、実際の顧客の行動や感情を反映した体験マップを作成し、マーケティング施策や製品開発を特定の顧客群に合わせて最適化することができます。
よりパーソナライズされたカスタマージャーニーマップは、顧客の抱える日常的な課題やメディア利用傾向に合わせたコンテンツやコミュニケーション戦略を考える基盤になり、マーケティングの効果を高め、顧客満足度の向上に繋がります。
BtoBの場合は複数の人がプロセスに関わる点に留意する
カスタマージャーニーをBtoBビジネスで作成する際の重要な注意点は、「複数の人が意思決定プロセスに関わる」という点です。BtoBの購入決定は通常、1人ではなく複数のステークホルダーによって行われます。例えば経営者、購買担当者、利用者、技術担当者など、異なる役割や責任を持つ人々が存在しています。各担当者は独自のニーズ、懸念点、影響力を持ち、これら全てを考慮に入れたカスタマージャーニーマップを作成する必要があります。
例えば、技術担当者は製品の機能面に注目するかもしれませんが、経営者はコストやROIを重視するでしょう。これらの異なる視点と要求を統合し、各ステークホルダーの意見や影響をバランス良く反映させることが、BtoBカスタマージャーニー作成の鍵となります。このプロセスを通じて、より効果的なコミュニケーション戦略やカスタマイズされたソリューションを開発し、顧客満足度の向上に繋げることができます。
打ち手をセットで考える
カスタマージャーニー作成時には、顧客の各ステージに対して単独の施策ではなく、一連の連動したアクションを計画することが重要です。
顧客の購入プロセスは、単一の行動や決断によって完結するものではなく、多くの異なるタッチポイントや経験によって構成されています。したがって、企業は、カスタマージャーニーの各段階において一貫性のある戦略を実施することが重要です。
例えば、
・初期の認知段階ではブランドの認識を高めるための広告を展開する
・興味関心段階では詳細情報を提供するコンテンツマーケティングに注力する
・比較検討段階では口コミがSNSに投稿されやすいようなキャンペーン施策を行う
・最終的な購入決定においてはパーソナライズされたキャンペーンを提供する
など、顧客の各フェーズに合わせた施策をセットで計画する必要があります。打ち手をセットで考えるアプローチは、顧客体験の向上と長期的な顧客関係の構築に寄与し、マーケティングの効果を最大化します。
定期的に見直して常にアップデートしていく
市場や顧客の嗜好は常に変化しており、一度作成したカスタマージャーニーマップが永続的に有効とは限りません。そのため、定期的な見直しとアップデートが必要です。
例えば、新しい技術の登場や競合他社の戦略の変化、社会的トレンドの変動などが、顧客の行動や期待に影響を与える場合があります。これらの変化に対応し、カスタマージャーニーを現状に適合させるためには、定期的な分析とアップデートが不可欠です。また、新しいデータやフィードバックを取り入れることで、カスタマージャーニーマップをより精密で実用的なものにすることができます。このように、カスタマージャーニーを継続的に更新し続けることは、顧客の変化するニーズに合わせた効果的なマーケティング戦略の実施に欠かせない要素です。
カスタマージャーニーマップ作製は電通マクロミルインサイトにご相談ください
カスタマージャーニーマップを作成するには、ユーザー・顧客・生活者の理解が欠かせません。企業が思い描く理想のユーザーではなく、実際にユーザーがどのような不満を抱いたりニーズを持っているのか、どのような購買プロセスを経るのかといった、生活者のリアルを把握するためには、アンケート調査やインタビューといった手法での生活者理解に長けている、電通マクロミルインサイトにお任せください。
マーケティングリサーチのセミナーや自主調査企画も実施。