従業員ロイヤリティの向上施策としてインナーブランディングは非常に有効な施策です。
この記事では、インナーブランディングに注力したいと考えている企業の担当者様に具体的な実施方法やメリットなどを、マーケティングリサーチ会社として解説します。
実際にインナーブランディングを利用して、従業員ロイヤリティの向上を実現している事例などもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
インナーブランディングとは何か
インナーブランディング(インターナルブランディング)は、従来の社外に対するブランディングとは異なり、社内の組織や従業員に対して行われるブランディングを指します。
本章ではインナーブランディングの具体的なが社内向けのどのような取り組みでや、アウターブランディングとの違いどう異なるのかをご説明します。
ブランディングの意味や事例については、こちらでさらに詳しく解説しています。
企業の理念や価値観を従業員に浸透させる取り組み
インナーブランディングは社内に向けた施策です。
インナーブランディングとは、自社の企業理念やブランド価値などを従業員に伝えて浸透させる取り組みです。
ブランドの持つミッション・ビジョン・バリューを従業員が体現できるように働きかけることで、自社のブランドに愛着をもつことができます。
その結果、従業員が「誇りを持って仕事ができる」「離職率が低下する」など様々なメリットを得られます。
アウターブランディングとの違い
一般的に「ブランディング」と聞いて、想像するのはアウターブランディングであることが多いかもしれません。
ブランディングにはインナーブランディング(内部)とアウターブランディング(外部)の大きく2つがあります。
両者の違いの代表的なものは以下3つです。
対象者
まず1つ目として対象者が異なります。
インナーブランディングが社内の従業員を対象とするのに対して、アウターブランディングは顧客を対象とします。
目的
2つ目に目的が異なります。
インナーブランディングの目的は「従業員に企業理念を浸透させることで、ブランドの持つミッション・ビジョン・バリューを従業員が体現できる」ことです。
一方、アウターブランディングでは「最終的に消費者にサービス・製品を購入してもらう」ことを目的として行います。
ブランディングとマーケティングの5つの違いや意味、関係性は?
メッセージの趣旨
最後にメッセージの趣旨が異なります。
インナーブランディングでは社内のメンバーに対して、企業理念や製品・サービスのビジョンなどがメッセージとして語られます。
それに対し、アウターブランディングでは企業や製品・サービスのブランド性を伝えるようなメッセージが語られます。ブランドアソシエーションと呼ばれる「ブランドから連想されるイメージ」を念頭に発信を行います。
例えば何かデバイスを売っている会社であれば、「革新的」「最先端」というサービスに関連するイメージを外部向けに発信するのがアウターブランディングのメッセージです。
環境変化の激しいときこそインナーブランディングが重要
インナーブランディングは社内外の環境変化が生じている時こそ、重要な施策です。
製品や提供するサービスは企業の成長フェーズや市場環境などにより変化します。
一方、会社のコアとなる企業理念やビジョンなどが変わることは基本的にありません。
インナーブランディングを行うことで企業の理念やビジョンが社内の従業員に浸透し、環境変化に対してポジティブな変化を生み出し続ける強い企業を作ることが出来ます。
インナーブランディングに取り組むメリット
インナーブランディングを行うことによるメリットは複数存在します。
本章では実際にどのようなメリットがあるのかを解説します。
従業員満足度が向上し、パフォーマンスが改善する
インナーブランディングを行うことで従業員満足度が向上し、パフォーマンスが改善します。
従業員満足度を規定する要因に関しては「ハーズバーグの動機付け・衛生理論」が有名です。
ハーズバーグは従業員満足度において満足をもたらす要因として複数の要因を挙げていますが、そのうちの1つである「満足のいく仕事内容に取り組めているか」という点にインナーブランディングが寄与します。
インナーブランディングを経て、企業理念やビジョンが従業員に浸透すると、従業員たちは自分の仕事に誇りを持って取り組むようになるため、結果的に従業員満足度の向上に寄与すると考えられます。
人材の定着率が改善する
離職率の高さや従業員ロイヤリティの低さに悩む人事部の方も多いかと思いますが、インナーブランディングでは人材の定着率が改善します。
まず既存の従業員に対しては、先述したように従業員満足度が高まることで 離職率の低下が生じます。
また新規で採用する人材に関しても、自社の企業理念を正しく伝えることで、自社に合った人材の採用につながります。
既存、新規どちらの観点においてもインナーブランディングにより、人材定着率が改善すると言えます。
従業員自らが自社の魅力の情報発信をする
従業員自身がしっかりと自社の価値を理解していると、自発的に外部への情報発信が生じます。
従業員が自社のことを気に入っている状態までインナーブランディングを徹底できると、自社の商品やサービスの情報発信にも繋がります。
インナーブランディングは最終的に外部向けのアウターブランディングにも繋がるため、両者は隔離されたものではなく、相互に連携しあっていると言えるでしょう。
インナーブランディングの取り組み方
前章ではインナーブランディングを行うことによるメリットをご紹介しました。
本章では実際にインナーブランディングを行う際、どのように行うべきなのかステップごとに詳しく解説します。
是非貴社内でインナーブランディング施策を実施する際の参考にしてください。
実態を正しく把握する
施策を実施する際には事前の状況把握が必須ですが、インナーブランディングにおいても現状の実態を正しく把握する必要があります。
現状の実態は定性、定量の両面からリサーチをしておくことが理想的です。
定量調査、定性調査については、こちらでさらに詳しく解説しています。
特に定量的なリサーチ結果はインナーブランディング実施にあたり、今後KPIとして設定することができます。
インナーブランディングを実施する前に定量調査を行い、今後モニタリングしたい指標を事前に取得することをおすすめします。
例えば、従業員満足度や従業員の自社への愛着度などは事前に把握しておくと後々KPIとして検証することが可能です。
KPIモニタリングとアクションについては、こちらでさらに詳しく解説しています。
目指す姿を描く
実態調査が完了したら、次はインナーブランディングを経て、会社としてどのような状態になっていたいのかを定める必要があります。
あくまでインナーブランディングは手段であり、この時点で目的を設定しておくことが重要です。
最終的な目的によって、取るべきインナーブランディングの施策も変わります。
施策を実施する
最終的な目的が定まったら、現状と目的のギャップや課題を確認します。
そのギャップを埋めるための施策を検討して実施しましょう。
例えば、「他部署が何をしているか分からず、会社全体として統一感が欠如している」という課題を現状把握の時点で認知していれば、社内報などで定期的に部署ごとの取り組みをまとめるのが効果的です。
他にも「従業員へ企業理念がしっかりと浸透していない」という課題感があれば、企業理念やミッションなどを記載したカードの配布などが施策として考えられます。
このように現状ある課題やギャップによって打ち手は変わるため、数あるインナーブランディング施策のなかから最適なものを考えて実施しましょう。
定着化させるための仕組みを、従業員を巻き込んで実施する
インナーブランディングを実施する際、初めは人事部や有志の一部メンバーのみの取り組みになることが多いです。
しかし、いつまでも限られたメンバーで施策を推進しても効果は限定的です。
社内で施策が浸透し始めたら、他の従業員も巻き込んで前者に対してインナーブランディングを推進するのが理想的です。
多くの従業員に取り組みが広がって初めて、企業のインナーブランディング施策が定着したと言えるでしょう。
モニタリングをする
事前に現状把握した際と同様に施策実施後もしっかりと状況をモニタリングする必要があります。
事前に設定していたKPIを定期的にモニタリングし、現状把握をしながら定性的なインタビューなども通じて改善点を探っていきましょう。
特にインタビューでは数字に表れない、改善のポイントなどが含まれていることがあるので、PDCAの一環として定期的に行っていくことが理想的です。
インナーブランディングを実施するときの注意点
インナーブランディングは効果が発揮できれば非常に素晴らしいものですが、実施する際に注意点があります。
本章ではインナーブランディングを実施する際の注意点をご紹介します。
実態把握をきちんと行う(都合のよいデータや見たい情報だけを見ない )
まず重要なのは、実態把握をきちんと行うことです。
専門的な知識のない従業員が実態把握を行おうとすると、実態を反映しない恣意的なデータが集まる恐れがあります。
実態把握を行う際は、専門知識を持った企業に外部委託するなどして、しっかりと現状に向き合う必要があります。
その際定量・定性どちらのデータも用意すると、仮説も立てやすくなり効果的な戦略を練ることが出来ます。
中長期的に取り組むために、長くコミットできる人材を配置する
インナー向けに限らず、ブランディング施策に即効性はなく、中長期的に効果を確認することが大事です。
そのため中長期的にコミットできる人物を配置するとともに、結果が出るまでの時間軸を事前に把握しておく必要があります。
ただ具体的な年数が決められていないと効果計測が正確に行えないため、「5年後にはKPIをここまで改善したい」など事前に期間を担当者間で確認しておくことが理想的です。
「強制」や、価値観が合わない人材を「排除」しない
インナーブランディング施策は企業のコアとなる部分を従業員に浸透させる素晴らしい取り組みです。
しかしインナーブランディング施策にこだわりすぎると、価値観が合わない従業員の排除につながる恐れがあります。
従業員間の価値観共有は非常に重要ですが、同時に多様性を大事にすることも忘れずに認識しておきたいポイントです。
あくまで従業員を第一に考え、従業員の意思が尊重される環境を用意することが重要です。
インナーブランディングの事例
インナーブランディングは従業員満足度の向上に非常に効果的です。
実際にインナーブランディングに取り組んでいる企業の事例をご紹介します。
スターバックス
まずご紹介する企業はスターバックスです。
スターバックスと言えば、リピーターが多く顧客満足度が高いことで有名ですが、従業員満足度も同時に重視しています。
実際にスターバックスの行動指針は以下のように記載されています。
- お互いに尊敬と威厳をもって接し、働きやすい環境をつくる
- 事業運営上での不可欠な要素として多様性を受け入れる
- コーヒーの調達や焙煎、新鮮なコーヒーの販売において、常に最高級のレベルを目指す
- 顧客が心から満足するサービスを常に提供する
- 地域社会や環境保護に積極的に貢献する
- 将来の繁栄には利益性が不可欠であることを認識する
「働きやすい環境をつくる」という項目が最上部に記載されていることからも、従業員の満足度を重視している姿勢がうかがえます。
同社ではドリンクに関するレシピなどは厳密に決められていますが、サービスに関するマニュアルなどは存在しません。
これは従業員一人一人が主体的に顧客を満足させるサービスを考えることこそがブランド価値であると捉えられているためであり、マニュアルがないことで自然とこの価値観が従業員にも浸透しているようです。
スターバックスを利用すると、カップに絵を描いてくれるという経験をしたことがある方もいるかもしれませんが、これはブランド価値が従業員に浸透している何よりの証拠です。
「従業員満足度」が向上することで「顧客満足度」に還元される、非常に良いサイクルが生み出されている例です。
ザッポス
もう一つインナーブランディングの成功例としてZappos(ザッポス)をご紹介します。
ザッポスはアメリカの靴のネット通販会社ですが、ユニークな企業文化を持つことで有名で、同社の高水準なカスタマーサポートが話題となり急成長を遂げました。
カスタマーサポートは24時間365日対応でトークスクリプトもないと言われており、顧客中心主義であることが分かりますが、従業員は疲弊せず、むしろ「従業員中心主義」であると言われるほど、従業員の満足度も高水準です。
ザッポスが「顧客」と「従業員」の満足度を両立させた方法はコアバリューの浸透です。
ザッポスでは「10のコアバリュー」と呼ばれる理念が有名で、この理念が従業員の共感を得ています。
コアバリューの一部をご紹介すると
- サービスを通じてWow(ワウ)を届けろ
- 変化を受け入れ、操れ。
というようなものでイメージされる企業理念というよりも、ライフスタイル寄りの理念であることが分かります。
ザッポスではこのコアバリューを従業員が実際に実践することで会社全体として一体感を持ったカルチャー醸成に成功しています。
コアバリュー浸透のためにザッポスが行った代表的な施策は「ザッポスカルチャートレーニング」、「ザッポス・カルチャーブック」です。
前者に関してザッポスでは同社のカルチャーを守るための定期トレーニングが開催されており、専門のチームまで設けられています。
後者はザッポスの従業員によって執筆されたカルチャーブックで同社のカルチャーに関する日常の出来事などが記載されています。
またザッポスは人材採用がユニークなことでも有名でカルチャー的にフィットした人材を採用するため相当の時間を費やします。
こういった複数の施策が有機的にシナジーを発揮することで、ザッポス独自のカルチャーが作り上げられています。
インナーブランディングにおけるリサーチの活用方法
インナーブランディング施策を実施するにあたり、実態調査を行う必要性に関しては前述しました。
本章ではインナーブランディングにおいて、どのようにリサーチを活用するのかをご説明します。
従業員調査
まずはインナーブランディング施策実施前後で状況を正しく把握するために、従業員調査が必要となります。
従業員調査においては定性・定量の両側面で企業理念・ブランド価値の浸透度合いなどを測ることが可能です。
その際、同じ社内でも部署や勤続年数などの属性により意識差が生じていることが判明するなど、戦略を練るうえで重要な示唆を読み取れることがあります。
上記のような示唆はインナーブランディングの推進を図っていく上での貴重なデータとして活用していきましょう。
ワークショップ
インナーブランディングを実施するうえではワークショップも有効に利用したい手法の一つです。
ワークショップには出来るだけ多くの従業員が参加できることが理想的ですが、最初は選抜された従業員のみで始めても問題はありません。
重要なことは、ワークショップにおける議論では出来るだけ他人の意見を否定せず、それぞれの意見をしっかりと出し切るということです。
この過程を経ることで従業員同士における認識の差異などが明確となり、真に浸透させるべき企業理念・ミッションなどが定まります。
ワークショップを行う上ではしっかりとアイデアを出し切り、次のアクションに繋げる必要があります。
初めてのワークショップ開催で不安な方は弊社でもアイディア創出ワークショップを承っておりますので、お気軽にご相談ください。
当社がご提供するワークショップについては、こちらでさらに詳しく解説しています。
当社がご提供するアイデア創出ワークショップについては、こちらでさらに詳しく解説しています。
実施時の注意点
リサーチを行う際の注意点は、自社ですべての調査を行わないことです。
自社で従業員調査を行う場合、従業員の本音や日々思っていることを引き出すことは困難です。
リサーチを行う際は適切なタイミングで第三者への外部委託を利用することで、インナーブランディングに役立つ情報を引き出す必要があります。
インナーブランディングでお悩みなら、電通マクロミルインサイトにご相談ください
本記事ではインナーブランディングの手法やメリット、そして実際に高い従業員満足度を実現させている企業例をお伝えしました。
環境の変化が激しい現代だからこそ、インナーブランディングが求められています。
企業理念やミッションを従業員に浸透させることは、後々社外へのブランディングにも繋がります。
本記事の情報を参考にして、出来る部分からインナーブランディング施策に取り組んでいただけると幸いです。
インナーブランディングでお悩みなら、電通マクロミルインサイトにご相談ください。
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