目次
マーケットインとは
「マーケットイン」とは、商品やサービスの開発において、市場のニーズや顧客の要望を第一に考えるアプローチを指します。消費者の不満、または欲求を把握し、それに応える形で新たな商品やサービスを開発・提供しようというアプローチです。
特定のニーズに適した商品を生み出すため、消費者とのギャップが生じにくく、開発後の市場投入から販売促進が容易になるといったメリットがあります。
マーケットインは、後述する「プロダクトアウト」と対比される概念でもあります。
プロダクトアウトは、企業が自社の技術力や独自性に基づいて新しい商品を開発し、市場に投入するアプローチです。
対してマーケットインは、消費者視点で企画段階からリサーチを行い、顧客が求めているものを製品として提供するため、購入意欲が高まりやすいとされています。
このマーケットインアプローチは、特に競争が激しい市場において顧客満足度の向上やリピート率の向上を目指すために多くの企業が採用しており、近年ではデジタルツールを活用したデータ分析を駆使し、消費者の詳細なニーズを理解することが求められています。
マーケットインの事例
マクドナルド
マーケットインの代表例はマクドナルドです。世界各国で展開するマクドナルドは、各国の食文化や顧客の好みに応じて商品メニューをローカライズしています。
例えば、インドでは宗教的な理由からビーフの代わりにチキンやベジタリアンメニューを提供し、日本では「てりやきマックバーガー」や「エビフィレオ」といった、消費者の嗜好に合わせた独自メニューを展開しています。
参照:https://toyokeizai.net/articles/-/57327
女性用アパレル商品
従来の女性のスカート・パンツには、デザイン性が重視され、ポケットが小さめのものや、ポケット自体がないものが主流でした。
ポケットがないため貴重品などを携帯できないという女性の不満が、近年SNSを通じて消費者の声として目立ってきており、こういったユーザーの声に着目してポケット付きの商品が開発・販売されています。
参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000539.000001066.html
https://o-temoto.com/akiko-kobayashi/motosuzuki-san/
マーケットインのメリット
マーケットインのアプローチを採用することのメリットには、以下のようなものがあります。
顧客満足度の向上
マーケットインによるアプローチでは顧客のニーズを起点に商品やサービスを設計するため、消費者が本当に求めるものの開発や提供につながります。そのため、商品が実際に使用される場面でのユーザーの不満を最小限に抑え、満足度が高まります。
顧客満足度の向上は、ブランディングやリピート購入につながり、長期的な売上の増加に貢献します。
顧客満足度の向上は、ブランディングやリピート購入につながり、長期的な売上の増加に貢献します。
販売促進の効率化
マーケットインによるアプローチで開発された製品は、顧客ニーズに合わせているため、販売促進が容易になります。
消費者が求める特徴や価値が商品に備わっているため、広告やプロモーションでの説明がスムーズに進み、売上に直結しやすい傾向にあります。
また、口コミやSNSでの評判が広がりやすくなるため、コスト効率の高いプロモーション活動が可能になります。
競争力の強化
消費者のニーズやトレンドを先取りして商品開発に活かすことで、競合他社との差別化が図りやすくなります。
特に、需要を的確に捉えた商品を提供することで競合よりも優位なポジションを確立しやすくなり、市場シェアを拡大することが可能です。
競争が激しい業界では、顧客ニーズに沿った製品を継続的に提供することで、他社に先駆けた新しい市場を開拓することもできます。
マーケットインのデメリット
マーケットインは市場や消費者のニーズに応じた商品・サービス開発で多くのメリットがある一方、次に挙げるようなデメリットやリスクも存在します。
革新性の欠如
マーケットインは消費者の現在のニーズや課題に基づくため、既存のニーズを満たすことに重点が置かれます。その結果、消費者がまだ気づいていない新しい価値や技術の導入は優先度が下がり、イノベーションを生み出す機会が減少しやすいという側面があります。
マーケットインに過度に依存すると、斬新で画期的なアイデアが生まれにくくなるという懸念はあります。
トレンド変化による影響
消費者のニーズや市場のトレンドは常に変化するため、マーケットインのアプローチで開発された製品が短期間で時代遅れになるリスクがあります。
特に、ファッションやテクノロジーなど変化の激しい分野では、ニーズが変わるたびに製品やサービスの見直しが必要になり、長期的な戦略が立てにくくなる可能性があります。
消費者ニーズの曖昧さ
消費者自身が自分のニーズをはっきりと理解していないことも多く、リサーチ結果が曖昧であったり、意図的に形成されたものであったりするケースもあります。これにより、市場調査に基づいて開発された製品が実際の消費者の期待とずれてしまうことも少なくありません。
特に、新しい市場や未知の分野では、消費者ニーズを過信すると想定外の結果につながることもあります。
プロダクトアウトとは
マーケットインと対極にあるのが「プロダクトアウト」というアプローチです。
プロダクトアウトとは、企業が自社の技術力や独自のアイデアを基に商品やサービスを開発し、市場に提供するアプローチです。この方法では、企業が持つ専門知識や技術を活かして、まだ市場にはない革新的な商品やサービスを創造し、それを消費者に提供して市場拡大を狙っていきます。
マーケットインが市場のニーズを起点とするのに対し、プロダクトアウトは企業側の視点を出発点とします。
プロダクトアウトの事例
Apple
プロダクトアウトアプローチの典型例としては、iPod、iPhone、iPadなどのデジタル家電を生み出したApple社が挙げられます。
社の共同創設者であるスティーブ・ジョブスは、は次のように述べています。
「顧客に何が欲しいかを聞いて、それを与えようとするだけではいけない。完成したときには、彼らは何か別の物を欲しがるだろう」
顧客の声ではなく、自社の技術や自らのポリシーに基づき、革新的な商品開発を行った成功例といえます。
参照:https://globe.asahi.com/article/13212395
バルミューダ
バルミューダのトースターや扇風機の開発は、ユーザーニーズからの同社代表取締役の寺尾氏の、「旅先で食べたパンが忘れられない」「子供のころに感じた風を再現したい」といった原体験をもとに、「最高のトースターを作る」「次世代の扇風機を開発する」といった、企業視点発のプロダクトアウトの開発といえます。
参照:https://www.balmuda.com/jp/toaster/story
https://www.balmuda.com/jp/greenfan/story
プロダクトアウトのメリット
革新的な商品開発
既存の市場にない全く新しい価値や体験を提供できるため、成功すれば市場に大きなインパクトを与えられます。技術革新が急速に進む分野や、次世代のトレンドをリードしたい企業にとって効果的です。
企業の技術力やブランド力を活かす
他社との差別化が容易になり、ブランド力の向上にもつながります。
特に、技術力や研究開発能力が高い企業では、その能力を最大限に発揮してプロダクトアウトのアプローチを取ることで、自社独自の価値を提供でき、競争力を強化できます。
特に、技術力や研究開発能力が高い企業では、その能力を最大限に発揮してプロダクトアウトのアプローチを取ることで、自社独自の価値を提供でき、競争力を強化できます。
価格競争からの脱却
プロダクトアウトは市場で唯一無二の商品を提供することを目指すため、他社との直接的な価格競争に巻き込まれにくいという利点があります。消費者がその商品に対して独自の価値を感じる場合、価格競争に巻き込まれることなく、利益率を高められる可能性があります。
プロダクトアウトのデメリット
市場ニーズとのギャップのリスク
プロダクトアウトは企業側の視点を優先するため、消費者がその商品やサービスに価値を感じられない場合もあります。特に市場ニーズを無視して製品を開発することは、市場に受け入れられず、販売不振に陥るリスクが高まります。
消費者にとっては「欲しくない」または「理解できない」商品になる可能性があり、企業の損失にもつながりかねません。
消費者にとっては「欲しくない」または「理解できない」商品になる可能性があり、企業の損失にもつながりかねません。
想定のターゲットに受け入れられない
プロダクトアウトのアプローチにより、市場や消費者の状況を把握せずに製品を投入すると、思わぬ反応が返ってくることがあり、想定していたターゲット層に受け入れられない可能性もあります。
開発コストと時間の負担
新しい技術やコンセプトを取り入れた製品開発には、通常よりも多くの時間とコストがかかることが多いです。プロダクトアウトは市場をリードする可能性がある一方で、開発段階での投資が大きくなるため、販売不振となった場合のリスクが大きくなります。
技術やアイデアが消費者に浸透するまでに時間がかかり、回収が難しくなることもあります。
プロダクトアウトは、企業が自社の独自技術やアイデアを活かして革新を生み出し、市場をリードするアプローチですが、成功には市場調査やタイミングの見極めが重要です。
マーケットインとプロダクトアウトの違い
前述したように、マーケットインとプロダクトアウトでは、起点や目的がそれぞれ異なります。
マーケットイン | プロダクトアウト | |
起点 | 市場・顧客起点 | 自社起点 |
目的 | ニーズの充足 | イノベーション |
マーケットインとプロダクトアウトは、それぞれ起点と目的が異なり対照的なアプローチですが、どちらか一方に偏るわけではありません。
市場や顧客のニーズをしっかりと把握しつつ、自社の技術力や独自のアイデアを活かした商品やサービスを開発することで、顧客にとって価値ある提案が可能になります。マーケットインで得たインサイトを土台に、プロダクトアウトの革新性を掛け合わせ融合することで、より効果的な戦略につながります。
カスタマーインとは
「カスタマーイン」は、マーケットインよりもさらに顧客中心の視点に立ったアプローチです。
マーケットインが市場全体のニーズを起点に商品やサービスを開発するのに対し、カスタマーインは個々の顧客や特定の顧客層の深層的なニーズ、感情、行動パターンを詳細に理解し、それに基づいてパーソナライズされた価値を提供することを目指します。
顧客一人ひとりに焦点を当て、顧客にとっての体験価値を最大化することがカスタマーインの特徴です。
カスタマーインの特徴と目的
個別ニーズへの対応による他社との差別化
カスタマーインは「市場」ではなく「顧客」個人に注目し、各顧客の価値観やライフスタイルに合わせたサービスや商品を提供します。このため、顧客ごとの嗜好や行動履歴、過去の購買データなどを分析して、顧客ごとの期待に応えたパーソナライズを目指します。
パーソナライズされたサービスは競合との差別化に寄与し、競争が激しい市場での大きな強みとなります。
顧客体験(CX)の最大化
カスタマーインは顧客体験(CX: Customer Experience)を最優先に考え、単なる製品提供だけでなく、購入からアフターサポートに至るまでの全プロセスにおいて、顧客が満足できる体験を設計します。これにより、顧客とのエンゲージメントやブランドロイヤリティの向上を図ります。
個別対応により、顧客一人ひとりに「自分のことを理解してくれている」と感じさせ、リピート購入やブランドへの忠誠心(≒コミットメント)の向上につながります。
マーケットインを成功させるためのポイント
マーケットインを成功させるためには、顧客のニーズや市場の変化を的確に捉え、それに応じた商品やサービスを提供することが重要です。
継続的な市場調査と顧客理解
マーケットインは、顧客のニーズを出発点とするアプローチです。そのため、継続的に市場や消費者の動向を調査し、ニーズの変化や新たなトレンドを把握することが欠かせません。特に、定量的なアンケート調査データと、顧客のインタビューといった定性的なデータを組み合わせることで、より深いインサイトを得ることが可能です。
ペルソナの設定とターゲットの明確化
顧客理解を深めるためには、具体的な「ペルソナ」を設定し、どのような人物がどのようなニーズを持っているのかを明確にすることが重要です。ペルソナを設定することで、商品企画やマーケティング施策を顧客視点で検討しやすくなり、ブレのない商品開発につながります。
デザイン思考の活用
マーケットインのアプローチでは、デザイン思考を活用して顧客ニーズに基づいたアイデアを具現化することが有効です。デザイン思考では、顧客の視点から課題を理解し、試作(プロトタイプ)を通じてアイデアを検証・改善していきます。小規模なテストを繰り返し行うことで、顧客にとって本当に価値のある商品を形にすることができます。
顧客からのフィードバックの重視
製品やサービスを一度市場に投入した後も、顧客からのフィードバックを大切にし、迅速に改善する姿勢が必要です。SNSやレビューサイト、直接インタビューなどを通じて顧客の声を収集し、製品やサービスの改善に反映させることで、顧客の期待に応え続けることができます。また、顧客との対話を重視することで、信頼関係を構築し、ロイヤリティの向上にもつながります。
マーケットインでの商品開発のためのマーケティングリサーチなら電通マクロミルインサイトにお任せください
マーケットインのアプローチを成功させるには、顧客視点に立ったリサーチと商品設計、そして市場の変化に対応できる柔軟性が欠かせません。
継続的な市場調査や顧客との対話を重ねることで、消費者にとって価値ある商品やサービスを提供し、信頼関係を築くことがマーケットインの成功に繋がります。
継続的な市場調査や顧客との対話を重ねることで、消費者にとって価値ある商品やサービスを提供し、信頼関係を築くことがマーケットインの成功に繋がります。
市場トレンド・顧客理解のための、マーケティングリサーチをお考えなら、電通マクロミルインサイトにご相談ください。