「顧客との関係性を深めたい」「顧客生涯価値(LTV)を高めたい」と考える企業にとって、“顧客エンゲージメント”は欠かせないキーワードです。
近年、サブスクリプション型ビジネスの普及やSNSを通じたブランド体験の共有が進み、単なる顧客満足ではなく、感情的なつながりや継続的な関係性=“エンゲージメント”が重視されるようになってきました。
本記事では、マーケティング担当者の皆さまに向けて、
・顧客エンゲージメントの定義や他の指標との違い
・なぜ今エンゲージメントが注目されるのか
・測定方法や具体的な向上ステップ
をわかりやすく解説します。
目次
顧客エンゲージメントとは?
顧客エンゲージメントの意味と定義
顧客エンゲージメントとは、企業やブランドと顧客の間に築かれる、単なる購買や満足を超えて、共感・信頼・愛着といった感情的なつながりが、継続的に双方向の関係性で生まれている状態を表す概念です。
顧客エンゲージメントが高い顧客は、次のような行動を自発的に取る傾向があります。
- ブランドに対して好意的な感情を持ち、SNSなどで言及・拡散する
- 新商品やサービスに積極的に反応・フィードバックする
- 他人に紹介したり、擁護・応援したりする
つまり、企業と顧客の関係が「商品を売る/買う」にとどまらず、価値観を共有し、共にブランドを育てていく関係へと発展しているのです。
現代のマーケティングにおいては、「売上」や「満足度」と並ぶ、中長期的な事業成長を支える重要指標として位置づけられています。
「顧客エンゲージメント」と「顧客ロイヤルティ」の違い
顧客エンゲージメントと顧客ロイヤルティは混同されやすい概念ですが、それぞれの意味と重視するポイントには明確な違いがあります。
比較項目 | 顧客エンゲージメント | 顧客ロイヤルティ |
定義 | 顧客との感情的・継続的な関係性 | 商品・ブランドへの忠誠心や再購買意向 |
主な指標 | NPS®、SNSでの言及、UGC量、関与度 | リピート率、購入頻度、会員継続率 |
成立条件 | 共感・信頼・ブランドとの対話 | 満足、価格・利便性・過去の経験 |
特徴 | 感情ベース・双方向・長期視点 | 行動ベース・片方向・中期視点 |
✔ エンゲージメントは「好き」や「共感」の土台
顧客ロイヤルティは「何度も買ってくれる」状態を示しますが、その背景にある感情までは捉えていません。一方、エンゲージメントは、「そのブランドが好き」「価値観に共感している」といった感情的つながりまで含みます。
✔ リピートしているからといって、エンゲージメントが高いとは限らない
たとえば、「近くに店舗があるから」「安いから」といった理由で繰り返し購入している場合、それはロイヤルティが高い状態ですが、エンゲージメントが高いとは言えません。逆に、購入頻度は少なくてもブランドの世界観に強く共感している顧客は、エンゲージメントが高く、将来的なLTV向上に寄与する重要な層です。
「顧客エンゲージメント」と「顧客満足度」の違い
顧客満足度(Customer Satisfaction:CS)は、商品やサービスを利用した顧客が「どれくらい満足したか」を測る指標です。多くの企業でアンケート評価(5段階や10段階)などを通じて収集・活用されており、マーケティングやCX改善の基本とされています。
一方で、顧客エンゲージメントは、「満足」を超えたその先の“関係性の深さ”や“ブランドへの関与の強さ”に注目する考え方です。
比較表:顧客満足度と顧客エンゲージメントの違い
比較項目 | 顧客エンゲージメント | 顧客満足度 |
定義 | 顧客と企業の継続的で感情的な関係性 | 商品・サービスの利用体験への評価 |
タイミング | 購入前〜利用後の体験全体にわたる | 購入・利用直後の感情が中心 |
主な評価方法 | NPS®、SNS投稿、継続利用、UGC など | アンケート調査、インタビュー調査など |
行動とのつながり | 高いエンゲージメントは行動に直結しやすい | 高い満足度でも離脱するケースあり |
✔ 満足していても「離脱」することはある
顧客が「満足している」と回答したからといって、継続利用や推奨につながるとは限りません。競合製品の出現や飽き、利便性の変化などによって、簡単に離脱してしまうこともあります。
✔ エンゲージメントは“行動を伴う感情”に注目
顧客エンゲージメントは、「このブランドに共感している」「また使いたい」「誰かに勧めたい」といった自発的な行動につながる感情的な結びつきを重視します。
つまり、顧客満足は“瞬間の評価”であり、顧客エンゲージメントは“長期的な関係”と捉えると、両者の違いが明確になります。満足度はエンゲージメントの一要素にすぎず、真のリピーターやファンの育成には、エンゲージメントの設計と測定が不可欠です。
顧客エンゲージメントが注目されている理由と得られるメリット
注目される背景①:商品やサービスが「選ばれにくい」時代へ
現代の市場は、商品やサービスの“機能差”だけでは選ばれにくくなっています。SNSやECの普及により、消費者が簡単に情報を比較・検討できる環境が整っており、価格やスペックだけでの差別化が難しくなりました。
この中で、企業が生き残る鍵は、顧客に対して「このブランドが好き」「共感できる」といった感情的な結びつき=顧客エンゲージメントを築けるかどうかにかかっています。
注目される背景②:リピートが収益の安定を支える
新規顧客の獲得には広告費や営業活動の負荷がかかる一方、既存顧客のリピートはROIが高く、事業の収益を安定させます。エンゲージメントが高まることで、顧客の離脱(チャーン)が減り、継続率が向上しやすくなります。
注目される背景③:顧客が「発信者」となる時代
SNSやレビューサイトの影響力が大きくなっている現代では、顧客が「企業の“第三者的な広報担当”」になりえます。エンゲージメントの高い顧客ほど、自発的に商品を紹介・応援し、自然な形で新規顧客の獲得にも寄与してくれます。
注目される背景④:フィードバックがプロダクト改善の資産になりえる
高いエンゲージメントを持つ顧客は、企業の取り組みに関心を持ち、率直で具体的なフィードバックを返してくれます。これは、リサーチで収集するデータとは異なるリアルな“ナマの声”であり、UX改善や商品開発の貴重な材料になります。
顧客エンゲージメントを高めるメリットまとめ
メリット | 内容 |
LTVの最大化 | 長期にわたり購買・利用し続けてくれる |
チャーンレートの抑制 | 他社への乗り換えが起きにくくなる |
ファン化による拡散 | SNS投稿・口コミで新たな顧客を呼ぶ |
マーケコストの最適化 | 顧客維持によって広告費依存が減る |
プロダクト開発への示唆 | エンゲージした顧客の声が改善のヒントになりえる |
つまり、顧客エンゲージメントは“ブランドの強さ”そのもの。売上の瞬発力よりも、事業の持続性を支えるマーケティング資産として、多くの企業が今、注目を集めているのです。
顧客エンゲージメントを計測するためのKPIとは?
顧客エンゲージメントは感情的なつながりを含むため、数値化が難しい指標と思われがちですが、いくつかのKPI(重要業績評価指標)を用いることで、定量的に可視化・評価が可能です。
以下では、代表的なKPIを4つご紹介します。
(1) 解約率(チャーンレート)
チャーンレート(解約率)は、サブスクリプション型サービスや会員制ビジネスにおいて、エンゲージメントの低下を最も如実に示す指標です。
チャーンレート(%)= 解約した顧客数 ÷ 期間前の顧客数 × 100
- 月初の契約者:1,000人
- 月末までに解約した人数:50人
→ チャーンレート = 50 ÷ 1,000 × 100 = 5%
エンゲージメントが高い顧客ほど、離脱をせずに、長く利用を続ける傾向があります。逆に、チャーン率が高い場合は、エンゲージメントが不足している可能性があるため、改善の糸口になります。
(2) リピート率・購入頻度
リピート購入の割合や頻度も、顧客のロイヤルティやエンゲージメントを測るうえで基本となる指標です。
- 過去◯ヶ月以内に2回以上購入した顧客の割合
- 会員の年間平均購入回数 など
単に購入してくれた回数だけでなく、「なぜ再購入してくれたのか」という心理的背景を把握するために、アンケート調査やインタビューを組み合わせると、施策を検討する場合にはより効果的です。
(3) 顧客満足度
顧客満足度(Customer Satisfaction:CSAT)は、顧客体験に対する直後の評価として広く用いられています。
- 「このサービスにどのくらい満足しましたか?」
→ 5段階 or 10段階で評価するアンケート形式が一般的
満足度はエンゲージメントの“入り口”であり、CSATが低いと継続利用やロイヤル化を阻むことになります。ただし、満足度が高くても、エンゲージメントが高いとは限らないため、他指標と組み合わせて使うのが有効です。
(4) NPS ®(ネット・プロモーター・スコア)
NPS ®(Net Promoter Score)もエンゲージメント関連指標の一つです。
- 質問例:
「あなたはこの商品/サービスを友人や同僚におすすめしたいと思いますか?」
→ 0〜10点で評価し、推奨度を測定
スコアが高い人(9〜10点)=推奨者は、ブランドへの高いエンゲージメントを持っており、紹介や口コミ拡散の中心となる可能性が高くなります。NPS ®は「感情+行動の意欲」を両方捉える指標として有効です。
KPIは「現状把握」や「改善効果の検証」に欠かせない要素です。定量調査だけでなく、定性調査や行動データ分析と組み合わせることで、顧客エンゲージメントの全体像を立体的に捉えることができます。
この違いを理解することで、「ロイヤルティの高い顧客をさらに“ファン化”していく」戦略設計が可能になります。
顧客エンゲージメントを高める3つの実践ステップ
顧客エンゲージメントを高めるには、感覚や経験則ではなく、調査・設計・改善のサイクルを意識することが重要です。ここでは、現場で取り組みやすい3つのステップをご紹介します。
Step1:現状調査・現状把握
まずは、自社の顧客エンゲージメントの“現在地”を把握するところから始まります。いきなり施策を打っても、どこに課題があるのかが不明確では、効果は限定的です。
数字だけでなく「なぜそうなっているのか?」を深掘ることで、打ち手の方向性が見えてきます。
- 定量調査(NPS ®、リピート率など)を用いた顧客エンゲージメントの“ベースライン”を把握
- 定性調査(インタビュー、SNS分析)で感情面の理解を深める
- セグメント別にエンゲージメントの傾向を把握(新規・既存・休眠 など)
Step2:カスタマージャーニーマップの作成
次に、顧客がブランドや商品に出会ってから、購入・利用・再購買に至るまでの体験の流れ(ジャーニー)を可視化します。
顧客の感情が動く「瞬間」を捉えることで、エンゲージメント向上のポイントが明確になります。必要なデータを得るためにはUXリサーチやインタビューの活用が有効です。
Step3:施策の実行と改善を繰り返す
設計した顧客体験にもとづき、エンゲージメント向上につながる施策を実行します。そのうえで、結果を定期的にモニタリングし、改善を繰り返すPDCAを回していきます。
「施策を実行して終わり」ではなく、施策とKPIをつなぎながら継続的に学習・改善する運用体制が、長期的なエンゲージメント強化につながります。
- 施策例:メール・LINE配信、コミュニティ施策、CX改善、リテンション施策など
- 実施後はNPS®や開封率、滞在時間などの数値で効果検証
- 定期的に調査やヒアリングを行い、施策の見直し
この3ステップは、「部分最適」ではなく「全体最適」の思考を持つための枠組みです。
調査会社や外部パートナーと連携しながら取り組むことで、よりスムーズかつ客観性のある運用が可能になります。
顧客エンゲージメントのポイントは「双方向」と「時間軸」
顧客エンゲージメントを正しく理解し、実務に落とし込むうえで特に重要なのが、「双方向性」と「長期的視点」という2つの軸です。この2つを意識することで、単なるキャンペーン施策に終わらない、“関係性を育てる”マーケティングが実現します。
双方向性:「企業からの一方通行」では関係は深まらない
従来のマーケティングは、企業がメッセージを届け、顧客がそれを受け取るという一方向のコミュニケーションが主流でした。しかし現代の顧客は、自ら情報を選び、SNSやレビューを通じて声を発信する存在になっています。
したがって、エンゲージメントを高めるためには、以下のような対話的な仕組みが必要です。
- SNS上でのコメントへの返信、リアクション
- カスタマーサポートでの丁寧な対応
- 顧客の声(VOC)を反映した商品改良やサービス改善
- ファンとの共創型キャンペーン(例:アイデア募集型)
顧客に「聞いてくれた」「反応してくれた」と感じてもらえる瞬間こそが、エンゲージメントの源です。
時間軸:短期施策ではなく、関係を「育てる」視点が必要
顧客エンゲージメントは、一度の接点や一度の購入で築けるものではありません。
継続的に顧客と関わり、信頼や愛着を少しずつ高めていく、長期的な取り組みが求められます。
- 定期的な情報提供(メルマガ、LINE、SNSなど)
- サービス利用後のフォローアップ
- 記念日・購入履歴に基づいたパーソナライズ
- コミュニティの運営や会員制プログラム
“育成型”のマーケティング視点を持つことで、単なる一顧客が“ブランドの支援者”へと進化していきます。
「つながりを設計し、育てる」ことが顧客エンゲージメントの本質
顧客エンゲージメントは、短期の数値を追うマーケティングでは捉えきれません。対話を重ね、関係性を深め、長く価値を感じてもらうための設計と運用が必要です。
そのためには、
- 調査・データによる現状把握
- カスタマージャーニーを起点にした体験設計
- KPIと連動した改善サイクル
- 双方向かつ長期的な視点
が欠かせません。
顧客エンゲージメントを意識したマーケティング施策のために、リサーチの実施をお考えなら、電通マクロミルインサイトにご相談ください。
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