スマートフォンやロボット掃除機、QRコード決済など、従来とは異なる革新的な商品・サービスが初めて販売された際に、発売直後にまず購入するのか、市場に浸透してから購入するのか、最後まで買わないのか、消費者のタイプによって分かれます。
このような消費者のタイプにより、商品が市場に浸透するプロセスを示しているのがイノベーター理論です。
この記事では、イノベーター理論について、5つの消費者タイプやキャズム理論、キャズムを乗り越えるポイントなどについて解説していきます。
目次
イノベーター理論とは
イノベーター理論は、エベレット・M・ロジャースによって提唱された、技術やアイデアの普及過程を説明する理論です。
この理論は、新しい技術やアイデアが市場に浸透・普及していくのかというプロセスを5つの消費者タイプ(イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード)に分けています。
この理論に基づき、自社の製品がどこまで普及しているかを分析し、マーケティング戦略やプロダクトライフサイクルなどに活用していきます。
イノベーター理論が重要な理由
急速な技術革新と市場の変化が進む現代において、新しい製品やサービスを効果的に普及させることが重要なため、イノベーター理論の理解が求められます。
デジタル技術やインターネットの普及により、情報が増加し伝播速度も速くなり、さらに消費者の嗜好も多様化しています。この中で消費者に支持されるためには、各消費者タイプの特性を理解し、適切なアプローチを取ることが必要です。
特に、初期の段階でイノベーターやアーリーアダプターを取り込むことが、彼らの影響力を活かして市場全体への普及を促進する鍵となります。
イノベーター理論は、企業が迅速かつ効果的に新しい技術やアイデアを市場に浸透させ、競争力を維持するための重要なフレームワークといえます。
イノベーター理論の5つのタイプ
イノベーター理論は次の5つのタイプに消費者を分類しています。
分類 | 全体に占める割合 |
イノベーター(革新者) | 2.5% |
アーリーアダプター(初期採用者) | 13.5% |
アーリーマジョリティ(前期追従者) | 34% |
レイトマジョリティ(後期追随者) | 34% |
ラガード(遅滞者) | 16% |
それぞれのタイプについて、詳細を解説していきます。
イノベーター(革新者)
イノベーターは、イノベーター理論における最初の消費者タイプであり、新しい技術やアイデアを最も早く取り入れる人々を指します。
彼らは全体の約2.5%と消費者における割合は少な目ですが、情報感度が高く、新しいものに対する好奇心が強いタイプです。リスクを厭わず、自ら進んで未知の製品やサービスを試し、その成果を他者と共有する特徴があります。
そのため、イノベーターは、技術やアイデアの初期普及において重要な役割を果たします。彼らが新しい製品やサービスをいち早く取り入れ、その利便性や価値を証明することで、次の段階のアーリーアダプターに対して製品・サービスに対する信頼感を与えます。
アーリーアダプター(初期採用者)
アーリーアダプター(初期採用者)は、イノベーター理論における2番目の消費者タイプで、イノベーターに次いで、新しい技術やアイデアを比較的早い段階で採用する人々を指します。市場全体の約13.5%を占めていて、インフルエンサーなどと呼ばれる場合もあります。
アーリーアダプターは、社会的影響力やリーダーシップを持つことが多く、他の消費者からの信頼が厚いです。彼らは自身の採用が他者に与える影響を理解しており、イノベーターが試した後の製品やサービスを検証し、評価します。
彼らのポジティブな評価や推奨は、次のアーリーマジョリティにとって重要な参考情報となり、普及の拡大に大きな役割を果たします。
アーリーマジョリティ(前期追従者)
アーリーマジョリティは、イノベーター理論における3番目のタイプで、市場全体の約34%を占めます。彼らは、リスクを最小限に抑えたいという意識が強く、新製品やサービスの採用には慎重です。
アーリーアダプターが新しい技術やアイデアを評価し、その価値が証明された後に購入・導入していきます。
アーリーマジョリティの特徴は、主流の意見やトレンドに従う傾向があることです。このタイプの消費者は、イノベーターやアーリーアダプターの評価や経験を参考にし、製品やサービスが一定の信頼性と安定性を持っていることを確認した上で採用します。
アーリーマジョリティの支持を得ることで、市場全体への普及が加速し、成功への重要なステップとなります。
レイトマジョリティ(後期追随者)
レイトマジョリティ(後期追随者)は、イノベーター理論における4番目の採用者カテゴリーであり、市場全体の約34%を占めます。彼らは、製品やサービスが市場で広く普及し、確立された後に採用します。リスク回避志向が強く、周囲の多くの人がすでに採用していることを確認した上で、新しい技術やアイデアを取り入れます。
レイトマジョリティの特徴は、伝統的・保守的な価値観を持ち、変化に対して慎重な姿勢を取ることです。このタイプの消費者は、既存の製品やサービスに満足しているため、新しいものに対するニーズが低いことが多いです。
また、コストや利便性に対する感度が高く、価格が下がったり、製品の信頼性が十分に証明されたりすることが採用の決め手となります。
ラガード(遅滞者)
ラガード(遅滞者)は、イノベーター理論における最後の消費者タイプで、市場全体の約16%を占めます。このタイプは新しい技術やアイデアの採用に最も慎重で、変化に対する抵抗が非常に強い傾向があります。伝統的な価値観を持ち、新しいものに対する信頼が低いため、既存の製品やサービスに強く依存します。
ラガードの特徴は、リスク回避志向が非常に強く、周囲の全員がすでに採用していることを確認しない限り、新しい技術やアイデアを取り入れることがありません。彼らは、変化が避けられない状況になった場合にのみ、新しいものを採用します。価格に対する感度も高く、コストが大幅に低下しない限り、新しい技術や製品に投資することを避けます。
イノベーター理論をマーケティングプロセスに活かすためのステップ
市場調査の実施
市場セグメンテーション
市場を細分化(セグメンテーション)し、各セグメントの特性やニーズを理解します。生活者をイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの各カテゴリーに分けて分析します。
ターゲットセグメントの特定
各カテゴリーの中で、製品やサービスの特性に最も適したターゲットセグメントを特定(ターゲティング)します。初期段階ではイノベーターやアーリーアダプターをターゲットにします。
競合分析
競合他社の製品やマーケティング戦略を分析し、自社の優位性や差別化ポイントを明確にします(ポジショニング)。
ニーズと課題の把握
顧客インサイトの収集
インタビューやアンケート調査等を通じて、各ターゲットセグメントのインサイトを収集し、彼らのニーズや課題を理解します。そのうえで、新商品やサービスがどのように顧客の課題を解決できるかを明確にします。
マーケティングメッセージの作成
価値提案の明確化
調査で明確になった各ターゲットセグメントに対してのベネフィットを明確にしていきます。イノベーターには革新性、アーリーアダプターには信頼性と先進性、アーリーマジョリティには実績と実用性を強調します。
カスタマイズされたメッセージ
各セグメントに対してカスタマイズされたマーケティングメッセージを作成します。彼らの特性やニーズに合わせた具体的なメッセージを伝えることが重要です。
フィードバックの収集と対応
継続的なフィードバック
マーケティング活動の進行に伴い、各セグメントからのフィードバックを継続的に収集します。顧客の意見や評価を反映し、製品やサービスの改善に役立てます。
迅速な対応
顧客のフィードバックに対して迅速に対応し、信頼関係を築きます。顧客のニーズや課題に応じたサービス改善や新機能の追加を行うことで、満足度を高めます。
このように、イノベーター理論で分類されている各消費者タイプの特性を理解し、それに応じた戦略を立てることが、新しい技術やアイデアの普及を効果的に促進することにつながります。
キャズム理論とは
キャズム理論は、ジェフリー・ムーア(Geoffrey A. Moore)が著書「キャズム」(原題 Crossing the Chasm)の中で提唱した理論です。イノベーター理論を基にしたうえで、革新的な製品の市場普及における重大な障壁を説明しています。
キャズムとは、谷間や溝を意味します。
キャズム理論では、イノベーターとアーリーアダプターで構成される、消費者における合計16%までを「初期市場」、アーリーマジョリティからラガードまでを「メインストリーム」と位置付けます。
この2つの市場の間に、深い溝(キャズム)があり、この溝を超えることが市場開拓において重要だという理論です。
キャズムが発生する理由
キャズムは、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に位置します。この段階で多くの新製品や技術が市場拡大に失敗したり時間がかかったりする原因として、顧客ニーズの違いが挙げられます。
イノベーター・アーリーアダプターは「新しさ」を重視するのに対し、アーリーマジョリティは「実用性」と「信頼性」を重視します。
「まだあまり広まっていない」「最新技術」という点に価値を見出す初期市場と、「みんなが持っている・使っているので安心」という点に重きを置くメインストリームとのギャップを埋めることが難しいため、製品が広く普及する前に失敗することがあります。
キャズムを乗り越えるために
アーリーアダプターへのマーケティング戦略は、イノベーションと最新技術の魅力を強調するのに対し、アーリーマジョリティには具体的な利便性と信頼性をアピールすることが重要です。
「目新しさ」から「安心・定番」というイメージへの転換が必要になるのです。この違いを認識し、適切に対応することが重要です。
具体的には、次のようなステップを経ていきます。
明確なターゲット市場の選定
いきなり巨大な市場全体へ普及させることは難しいため、まずは初期市場での立ち位置を確実なものにする必要があります。
特定のニッチ市場やセグメントをターゲットにし、その市場でのリーダーシップを確立することからはじまります。これにより、規模は小さくてもユーザーの信頼性と評判を築き、次の市場セグメントへの移行をスムーズにします。
製品の実用性と信頼性のアピール
次に、アーリーマジョリティが重要視するのは、実際に役立つことや、信頼できるかという点です。実績のある導入事例や、具体的な効果を示すデータを提供することで、彼らの信頼を得ることにつながります。
マーケティングメッセージも、実用性と安定性を強調するように、具体的なベネフィットや成功事例を示すことで、アーリーマジョリティへアピールしていきます。
インフルエンサーの活用
アーリーマジョリティの特徴として、主流となるの意見やトレンドに従う傾向があります。
そのため、インフルエンサーなどを活用し、SNSなどでPRすることも有効です。
インフルエンサーの評価や推薦は、アーリーマジョリティにとって重要な信頼の指標となり、波及効果につながります。
ユーザビリティ・ユーザーエクスペリエンスの改良
初期市場のイノベーター・アーリーアダプターは、「目新しさ」に価値を見出すため、多少使いづらくても、新商品やサービスを購入する傾向がみられます。
一方、アーリーマジョリティ以降のメインストリームでは、「使いやすい」「操作性がよい」といったことが重要のため、「使いづらい」「わかりにくい」といった点はできる限り排除し、改良する必要があります。
開発者では問題点が見つけにくい場合も多く、専門家に意見を聞いてみたり、実際にユーザーに操作してもらうことで改良点を調査する方法がおすすめです。
イノベーター理論に基づき消費者や市場特性のリサーチをお考えの場合は、電通マクロミルインサイトにご相談ください
今回は新たな製品が市場に浸透する過程を、5つの消費者タイプに分類するイノベーター理論について解説しました。
新たな商品開発を実施し、市場拡大を図る際は、イノベーター理論で分類される各タイプの特徴や実態についての理解が欠かせません。
市場やユーザー理解のためのマーケティングリサーチなら、電通マクロミルインサイトにお任せください。
マーケティングリサーチのセミナーや自主調査企画も実施。