現地でのトレンドや消費者のリアルについて、グローバルリサーチ(海外調査)を担当するグローバルリサーチャーによるトレンドレポート第16弾は、DMI新メンバーから中国のトレンドお菓子から見える中国消費市場の変遷について紹介します。
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目次
SNSで話題の「辣条(ラーティアオ)」とは?
SNSで今、密かに注目を集めている「辣条(ラーティアオ)」をご存知だろうか。
別名「チャイニーズ・スパイシー・スティック」とも呼ばれる、中国でロングセラーのスナック菓子だ。 小麦粉や砂糖、唐辛子、スパイスを原料とした棒状の菓子で、クチャっとした独特の弾力ある食感と、後を引くピリ辛さが特徴。「一度食べたら止まらない」と、中毒性の高さが人気の秘密だ。
今や大手スーパーの棚を席巻する人気商品だが、筆者の幼少期、辣条は今とは全く違う立ち位置にあった。
当時は包装も簡素で油漏れも多く、親世代からは「不潔なもの」の代名詞。大人たちは「あれは段ボールから作られているんだ。食べたら病気になるぞ」と真顔で子供を脅したものだ。そのため、子供たちは大人の目を盗んでは小売店へ走り、こっそりと頬張る。辣条は、まさに「禁断の菓子」の代表格だったのである。
▼放課後、小銭を握りしめて走ったあの頃。目移りするほど種類豊富な「禁断の味」
▼一口サイズに凝縮されたスパイシーな誘惑。親の目を盗んで頬張るには最適の大きさ。
▼一つ、また一つと手が伸びる小分け包装。これこそが、かつての子供たちにとっての「至福のひととき」
▼辣条の代名詞ともいえるスティックタイプ。一度食べ始めると、もう一本が止まらない。
定義された「清潔感」という視覚的価値
辣条がプレミアム化を遂げたのは2016年頃のことだ。
業界最大手の「衛龍※(Wei Long)」が、最先端の携帯電話を彷彿とさせる極めてミニマルなパッケージデザインを採用した。
大胆な余白、マットな質感、洗練されたフォント。かつての「不透明で中身が見えない、赤や緑のド派手なパッケージ」から、ガジェットのような「ミニマムデザイン」への刷新は、消費者に劇的な衝撃を与えた。
この白を基調とした清潔感に重きを置いたアプローチが、人々の食品安全への根強い疑念を払拭した。その結果、辣条は校門前の売店から市中心部の高級スーパーやコンビニへと進出・昇華し、都市部で働くビジネスパーソンたちのデスクに堂々と置かれる「市民権」を得たのである。
※ https://www.weilongshipin.com/
▼まるで最新ガジェットのよう。余白を活かした「潔い白」が、辣条のイメージを180度変えた。
「模倣」から「自信」へ:潔浄車間(クリーンルーム)が支える市場規模
智研コンサルティング(Intelligence Research Group)『中国辣条(ラーティアオ)産業発展態勢及び投資収益分析レポート 2020-2026』の予測によれば、中国の辣条市場規模は2026年までに800億元(約1.7兆円)を突破する見込みである。現在の売り場を見渡すと、もはや「ミニマムな白」だけではない。「ドーパミン・カラー」や、中国伝統文化を取り入れた「国潮(グオチャオ)」デザインなど、多様な進化を遂げている。
もはや辣条は、デザインだけで「衛生面」を証明する必要がなくなったのだ。なぜなら、かつての小作坊(小さな町工場)は淘汰され、今や医療レベルの「無塵室(クリーンルーム)」を備えた近代的なオートメーション工場での製造が業界標準となったからである。
▼デザインの多様化は「品質への自信」の表れ。衛生面を強調せずとも、そのクオリティは今や当然の前提となった。
プレミアム化を支える「社交の通貨」としての価値
かつては0.5元で販売されていたが、今では1袋5元以上が一般的な価格となっている。その要因は、消費層の劇的なシフトにある。
業界資料(フロスト&サリバン等)によると、消費の約70%を35歳以下の若年層が占めている。かつて親に隠れて辣条を食べていた子供たちが、今や都市部のオフィスワーカーとなり、過酷な労働下での「ドーパミン報酬(自分へのご褒美)」として辣条を求めているのだ。
辣条は今や、単なる菓子ではなく、強い話題性を持つ「ソーシャル・カレンシー(社交通貨)」へと昇華した。
日本に住む中国人留学生から、日本人の友人の誕生日にデザインの洗練された辣条をプレゼントしたところ、予想以上の驚きと喜びを持って迎えられたという話を聞いた。かつての「チープで不潔」というバイアスをデザインで払拭したことで、SNS映えし、フォーマルな場でも「体面(メンツ)」を保てるギフトへと進化したのである。
▼「駄菓子」から「ギフト」へ。洗練されたデザインは、国境を越えた驚きと喜びを生む「社交の通貨」となった。
終わりに:かつての子供たちへの「情緒的価値」
「禁断の菓子」から「ビジネスシーンの社交ツール」へ。パッケージの変遷は、中国消費市場が「量」から「質」へと転換期にあるいい例であろう。
清潔で質感のあるパッケージは、単なるビジュアルの更新ではない。それは、かつて後ろめたさを感じながらこっそり辣条を買っていた子供たちへの、最高のエモーショナル・バリュー(情緒的価値)といえるのではないだろうか。
▼後ろめたさは、もうない。堂々と手に取れる清潔なパッケージは、かつての子供たちへの最高のギフト。
2026年電通マクロミルインサイト入社。 前職は中国の英系リサーチ会社にて、グローバル定量調査を担当。
中・日・英・韓の4か国語を仕事で使いこなすマルチリンガル。
現在は、多言語・多文化のバックグラウンドを活かした「独自のクロスカルチャー視点」を強みに、日本と海外を繋ぐリサーチャーとして活動中。