現地でのトレンドや消費者のリアルについて、グローバルリサーチ(海外調査)を担当するグローバルリサーチャーによる出張レポート第3弾は出張直前に政情不安定がニュースになったバングラデシュ。
現地の日常から交通、食事情まで幅広く、臨場感たっぷりにお届けします。
大規模デモがあったバングラデシュへ
2024年7月、バングラデシュで公務員採用の特別優遇枠のクオータ制の改革要求を発端として、学生のデモが頻発し治安当局との衝突が続いているとのニュースが世界を駆け抜けた。7月中旬にはインターネットの遮断もみられ、外出禁止令も発令されたとのこと。国連はおよそ650人が死亡したとする報告書を公表した。
※出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240817/k10014551271000.html
予定されていた9月中旬の出張に行けるのか(行くのか?)と、やきもきする日が続いたが、出発3日前にビザがおりダッカへ向かうこととなった。こうなったら、頼れるのは自分だけ。
今までのキックボクシングの練習時間と、InBody測定者が「あっ、うまくできなかったみたいなのでもう一度やります」と信じてくれなかった筋肉量を武器に行くしかない。行けばわかるさ。
『深夜特急』の世界へ、いざ到着
香港での乗り継ぎを経て、ダッカに深夜1時に到着した。
目の前には学生時代に何度も読み返した『深夜特急』の世界が広がっている。バングラデシュはインドの東側に隣接し、人口1.7億人を有する。
プロジェクト担当者の一人、デリー(インド北部)出身者はしきりに「南インドに似ている」と言っていた。インドも大きいので、北部・南部とで大きな差があり、ダッカは地理的も近い南インドを彷彿とさせるらしい。人口の90%はイスラム教徒で、街のいたるところにモスクがみられる。
▼街のいたるところにモスク
外出禁止令が解除されたダッカの街は大きな混乱や建物の破壊などもなく、住宅街にある一般的なスーパーでも、キオスクでも日常品や生鮮食品は豊富に販売されていた。現地のスーパーバイザーは、「これからどんな風に国が変わっていくのか楽しみ。前をみて進んでいく」と照れながらも、しっかりドヤ顔で話す。
▼ダッカ住宅街のスーパーの様子
飲食店や工事現場なども営業再開。子供たちも元気に外で遊んでいる。
これまでの生活に戻ってきていると言って問題ないだろう。
そして無数のリキシャ(3輪タクシー、自転車に座席を繋げているものもある)と、けたたましいクラクション音と渋滞も戻ってきた。
▼ダッカの街並み、外で遊ぶ子供たちや渋滞の様子
空港からホテルに向かうドライバー、ホテルから現地調査会社へ向かうドライバー達に、「目的地まで何分ぐらい?」と尋ねると全員が、何かの新しい時間の単位にでもなったのかと間違えるくらい「30分」と答える。滞在1日目の夜に気が付いた。こんな状態で、所要時間もへったくれもない。30分ぐらいと答えるしかないのだ。
▼バングラデシュの渋滞とカオスな道路(再生時は音量注意)
当然のようにスマホをもち、安定した通信環境があり、地図アプリが目的地までの最短距離を教えてくれ、公共交通が発達した都市では最適な移動手段まで提示してくれる。これが当たり前のように過ごしているが、世界のある場所では当たり前ではない。「すっかりコロナで鈍ったぜっ」と己に喝を入れる。
バングラデシュの「手食」にみる、食ローカライズの難しさ
今回の出張で改めて感じたことの一つに、食ローカライズの難しさがある。
バングラデシュの主食は米。ある統計では世界一の米消費国として紹介していた。「米と魚の国」と呼ばれるだけあって、スーパーにも魚が多く並んでいた。地理・気候の影響もあると思うが、イスラム教徒が多く豚肉NGの人が多いのも要因の一つかもしれない。
バングラデシュだけではなく、アフリカ、中東、アジアの一部地域では「手食」が浸透していて、器用に右手で食事をする。今回の出張でも「スプーン用意するけど、手で食べた方が美味しいよ」と何度も言われた。
▼器用に右手で食べるバングラデシュの人たち | ▼チキンビリヤニ スパイスたっぷりのチキンとお米。 バングラデシュの料理には、 生キュウリとライムが添えられることが多い |
以前にチームメイトの一人が出張先のインドで誕生日を迎え、現地調査会社の人たちがバースデーケーキを用意してくれ、そのケーキをみんなで手で食べたというのが本当に忘れられないと話していたのを思い出した。
手食は咀嚼を意味するらしい。当然手で触れる温度の食事になるので、私からすると「ぬるい」と感じることがある。
以前にアメリカで多数ラーメン店を経営する社長と話をする機会があったが、その時に「アメリカで食べるラーメンってぬるいって感じちゃうんですよね」と言うと、実際日本のものより温度を下げているらしい。理由はアメリカでは麺をすすれない(音をたてて食べるのはマナー違反)人が多いので、その対策として温度を下げているとのこと。
日本の当たり前は、世界の当たり前にあらず
ふと、日本人って「美味しい」とイメージするものの温度が高くて、湯気とセットのもの多いよなと思い始めた。炊き立てのご飯、湯気がのぼるラーメン、焼き芋、肉まんなどなど。
アメリカの国民食Mac&Cheeseの広告やパッケージを思い出すと、「温かさ」の表現として、「湯気」ではなく「チーズがとけている」表現の方が多かったのを思い出した。米大手ファストフードのウェブサイトを見てみても、揚げたてのポテトから湯気が出ている写真は見当たらなかった。
「日本の当たり前は、世界の当たり前じゃない」。頭では分かってるようで、忘れていることも多い。まずこの違いに気づくことから。それから一歩づつ前に。海外でのビジネス展開も同じはずだ。
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