顧客が一瞬で購入まで至るのは稀です。
商品やサービスの認知から関心、比較・検討、そして購入・継続へと、段階的に意思決定を進めていくことが一般的です。
この“行動の流れ”を正しく捉え、フェーズごとに適切な施策を打つために欠かせないのが、「マーケティングファネル」という考え方です。
「どこで見込み顧客が離脱しているのか?」「どんな打ち手でコンバージョンを改善できるのか?」といった課題解決の糸口を探るのに有効となる、ファネルの基本構造からリサーチによる分析について解説します。
目次
マーケティングファネルとは?
マーケティングファネルとは、顧客が商品やサービスを「認知してから購買、さらにはファン化・継続利用に至るまで」の心理的プロセスを段階的に可視化したモデルです。
“ファネル”とは日本語で「漏斗(じょうご)」を意味し、多くの見込み客が上部の認知から購入に至るステップで、徐々に絞り込まれていく様子が似ているため、名付けられました。
消費者が商品購入に至るプロセスを分解して、マーケティング戦略やコミュニケーション戦略の評価を行うことを、ファネル分析といいます。
あるステップの指標が大きくなれば、それ以降の指標も大きくなるので、ボトルネックとなっているステップを発見して、そこを改善するという考え方です。
マーケティングファネルの活用目的
マーケティングファネルは、次のような目的で活用されます
• フェーズごとに最適なマーケティング施策を設計するため
• コンバージョン(購入・申し込みなど)までのボトルネックを特定し、改善するため
例えば、認知段階では広告が有効であり、検討段階では比較資料や導入事例の紹介が重要となります。こうした各ステージに合わせた施策を立案・実行することで、無駄のないマーケティング戦略が可能になります。
さらに近年では、SNSの普及やデジタル接点の多様化により、ファネル構造も進化しています。従来の単一ファネル(認知→興味→購入)だけでなく、インフルエンスファネルやダブルファネルなど、多様な視点からのアプローチが求められるようになっています。
マーケティングファネルを正しく理解し、自社のターゲットに合った形で活用することは、見込み顧客の獲得から顧客ロイヤルティ向上までを一貫して強化する鍵となります。
3つのファネルの種類
代表的なマーケティングファネルを3つ紹介します。
パーチェスファネル(購買ファネル・Purchase Funnel)
最も基本的なモデルで、消費者が購買に至るプロセスを示すフレームワークです。
消費者行動モデルのAIDMAのステップと関連しており、マーケティング施策設計の出発点として現在も広く使用されています。
▼購買ファネル
ステージ | 目的・顧客心理 |
認知(Awareness) | 商品・サービスの存在を知る |
興味・関心(Interest) | 内容に関心を持ち、情報を集める |
比較・検討(Consideration) | 他商品と比較し、自社製品の価値を検討する |
購入(Action) | 実際に購入・問い合わせへ至る |
インフルエンスファネル(Influence Funnel)
従来のマーケティングファネルは、「広告を見て知り、比較・検討して、購入に至る」といった直線的な行動を前提としていました。しかし近年は、SNSや口コミ、動画コンテンツなど、第三者の“影響(インフルエンス)”をきっかけに購買が生まれるケースが急増しています。この変化を反映して生まれたのが「インフルエンスファネル」です。
「継続→紹介→発信・拡散」という3段階で構成され、SNSやUGC、インフルエンサーの影響が大きくなった現代に即しており、AIDMAから派生したAISASのステップにおける「Search」と「Share」という、SNSや口コミ、レビューなどの影響を受けて、態度変容の起点に着目している点が特徴です。
▼インフルエンスファネル
ステージ | 目的・顧客心理 |
継続 | サービスを継続・リピートする |
紹介 | 人に紹介する |
拡散・発信 | SNSなどで拡散・発信する |
このファネルでは、「広告」ではなく「共感」や「つながり」が購買行動の起点になります。
企業が一方的に発信する情報よりも、「誰が紹介しているか」「誰に影響を与えるか」と「誰に拡散してもらうか」といった点がマーケティングの鍵になります。
インフルエンスファネルが注目されている理由
・Z世代・ミレニアル世代は「検索よりSNSで調べる」傾向が強い
・企業からの発信よりも「共感できる個人」の声を信頼する
・購入後のシェア行動が、次の購買の起点になる“循環型”モデル
ダブルファネル(Double Funnel)
ダブルファネルとは、新規顧客の創出から、既存顧客の維持や認知拡大まで、マーケティングの効果を全体的に構造化したファネルです。
パーチェスファネルとインフルエンスファネルの2つを組み合わせたものであるため、ダブルファネルと呼ばれています。
▼ダブルファネル
ファネル分析によるボトルネック要因の発見と改善
マーケティングファネルを構築した後に重要となるのが、「どこで見込み顧客が離脱しているか」を把握するボトルネック分析です。
ファネル構造は、フェーズが進むごとに対象者が絞られていく前提ですが、想定より大きく落ち込むポイントがある場合、それが改善すべき“ボトルネック”となります。
ボトルネック分析
ボトルネック分析とは、ファネルの各ステージにおけるコンバージョン率(CVR)を計測・比較し、「どの段階で効率が著しく低下しているか」を特定することを指します。
ボトルネック要因分析
また、ボトルネックの要因を分析することも重要です。
例えば、対象ブランドに対してあるイメージを持っている人(ON)と持っていない人(OFF)では、購入意向から実際の購入にいたる段階で、大きな差があったとすると、このイメージが実際の購入にいたる段階で大きく関係しているといえます。
要因としては、ベネフィット評価やブランドイメージだけでなく、タッチポイント接触 (ex.TVCMを見た=ON・見ていない=OFF)なども同様に仮説をたてて、調査を実施することが重要です。
よくあるボトルネックと原因例
ボトルネック箇所 | 想定される主な原因 |
認知 → 関心 | 広告とLPの整合性がない、訴求が弱い、ターゲットのズレ |
関心 → 検討 | 情報量不足、競合との違いが不明確、信頼性に欠ける |
検討 → 購入 | 決め手がない、UIがわかりにくい、価格や導線に課題 |
購入 → 継続 | 体験価値が低い、フォロー不足、CX改善が遅い |
比較分析・時系列分析
ファネルの各指標が、ブランド別にどう違うか、ターゲット別にどう違うか、など様々な視点で比較して特徴を発見する分析です。
例えば下記のような結果の場合、ブランドAは興味→意向がボトルネックだが、ブランドBは認知→興味がボトルネックといえます。興味が喚起できればBの方が購入意向につながりやすいといえます。
興味喚起につながる広告などの施策実施後に、時系列での変化を定期的にチェックすることも重要です。
マーケティングファネルを分析するためのリサーチ活用のポイント
活用のポイント①各ファネルステージの数値とKPIを把握する
まず各ファネルステージの数値とKPI把握のためには、定量によるアンケート調査が有効です。
KPIを策定する際には、自社の各ステージの数値だけでなく、競合他社の数値との比較も重要となるため、他社と比較してのリサーチが重要です。
活用のポイント②:離脱要因やニーズを深掘る
ボトルネックとなる原因の仮説が判明したら、デプスインタビュー(定性)により、比較・検討〜購買フェーズの障壁分析を具体的にヒアリングします。
UI/UX上の課題を行動観察から抽出するために、ユーザビリティテストを行うことやヒューリスティック分析も有効です。
活用のポイント③:ファネル別に“知りたいこと”を明確にする
ファネルごとに異なる仮説が存在するため、リサーチ設計では、以下のように目的を明確化すると効果的です。
ステージ | 目的・顧客心理 |
認知フェーズ | 「何を見て初めて知ったのか?」「印象に残った理由は?」 |
関心・検討フェーズ | 「どこで比較した?」「なぜすぐに動かなかった?」 |
購買フェーズ | 「決め手は何だった?」「迷いがあったか?」 |
継続・ロイヤルティ | 「再購入した理由は?」「不満点はあった?」 |
このように、ユーザーの行動変化のきっかけや迷いのポイントを調査設計に盛り込むことで、ボトルネックの可視化精度が高まります。
活用のポイント④:意識と行動を「一気通貫」で捉える
リサーチでは、「行動ログ」や「購買データ」などの“アクチュアルデータ”と分断されない形で、次のように“意識変容の前後関係”をとらえる設計が理想です。
• メルマガ読者と非読者の購買転換率を比較
• 離脱ユーザーに理由をヒアリングし、LPやUI改善にフィードバック
このように、定量と定性、アクチュアルデータとアンケートをつなげて分析することで、よりリアルな「ファネル上の課題点」が見えてきます。
マーケティングファネル分析をお考えなら電通マクロミルインサイトにご相談ください
マーケティングファネルの課題は、数値だけでなく「なぜその行動が起きたか?」という顧客視点の理解がないと、真の改善にはつながりません。リサーチを活用することで、顧客の迷いや不安、期待値とギャップといった無形の要素を可視化でき、ファネル全体の最適化が可能になります。
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